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FF15:レガリア(TYPE-F)で1000年の時を超える話《新約 58-1》
- 2025/11/16 (Sun) |
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《今回の御品書き (FF15・二次創作モドキです) 》
【『ルシスの禁忌』とは (後日談・1)】
《今回の御品書き (FF15・二次創作モドキです) 》
【『ルシスの禁忌』とは (後日談・1)】
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【『ルシスの禁忌』とは (後日談・1)】
ソムヌスがルシス王国を興して、約1年。旅立った時は10歳にも満たない・・・8歳だった彼は、12歳を過ぎていた。
が・・・それでもたった12歳の少年。
本人が望んだ訳でも無く、多くの民らに望まれ就いた「王の座」だったけれど。
その実、真実を知る者達からすれば「アーデンが王となる筈だった国を、ソムヌスが乗っ取った」ようにも見え。
建国宣言とソムヌスの即位から、1年もしない内に王の威光に翳りが差し。
アーデンの喪明け一年を待たれていた即位式を前に、
「本当に、新たな国の・・・自分達の国の王は、
ソムヌス様で良かったのだろうか?」
と・・・既に国家としての基盤の弱さが露見する有様だった。
幼い少年王・ソムヌスを支えるのは、ソルハイムの頃より共にあった「王剣の一族」と。アーデンとの旅途中で出会い、彼の信頼を得て「臣下」という立場に取り立てられていた者達・・・この二つを中心としていたけれど。
何せ王剣の一族の思想は、彼らの祖国・ソルハイム王国のそれを下地としており。そもそも「ソムヌスを支えるのは、主・アーデンの為」という想いが、彼らの心の支えとなっていたので。新たな国「ルシス王国」に対しても、ソルハイムの在り方を重ねる様なところがあった。
対して臣下達はアーデンを敬い忠誠を誓っていたとはいえ、もともと東の大陸の者達だったので・・・主を失って尚、頑なにアーデンへの信仰を支えとする王剣の一族に比べれば、新たな国に対する姿勢も柔軟だった。
つまり臣下達は「新たな国となったのだから、今の民らの為の国を目指すべきだろう」とし。
それに対し王剣の一族は「ソルハイムの全てを否定するようなやり方は、祖国や主に対する裏切りである」と拒絶。
嘗てアーデンの施しを受け、この御方に付いて行こう・・・と、忠誠を誓い良好な関係にあった臣下達と。東の大陸にも「同じソルハイムの民」と思える者達がいるのだな・・・と、その存在に助けられ認めていた王剣の一族の関係は。
これからは共に新たな国を育て守っていこうと・・・そう誓いを立てたにも拘らず。何時の頃からか少しずつ・・・互いに分かり合えない存在となっていき。
その様な大人たちの諍いに板挟みにされ、幼い王が政を成せる筈も無く。
自分には、何の力も無いのだと。
王としての自信の無さ故に、次第にふさぎ込むようになってしまった。
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その様な状況での、ルシス王国即位式。
建国宣言とソムヌスの即位から、今日の即位式まで一年の期間が設けられたのは「華々しい式典は、アーデン様の喪が明けてから」との、アーデンを忍ぶ人々を思っての配慮で。
逆を返せば、それは「喪が明けたのだから」という区切りを定めた・・・とも言え。
一年前の周知を目的とした、声明での建国・即位宣言とは異なり。今日の即位式には、それに相応しい舞台が用意され。王の即位を認め祝い結束を強める為にと、島中の人間が・・・ルシス王国の民らが集められた。
が、この日までの一年間の動向によって・・・既にソムヌスの王としての資質が疑われつつあったので。王権側のそのような思惑とは裏腹に。多くの国民がこの今更で大仰な即位式を、どこか冷ややかな目で見ていた。
本当に、あのような幼い少年が王で良かったのか?
彼をこの国の、自分達の王と認めて良かったのか?
嘗て実権を握っていた・・・彼ら自身が「悪神の化身」としながらも。その奇跡の力は本物だと信じていたアーデンの死が有耶無耶なだけに、あれやこれやと事実を伴わない不安が付きまとう。
彼の奇跡の力は、本物だった。
なら・・・やはり彼に付いて行った方が、彼の力に縋った方が良かったのでは?
その様な人々の視線に、本来「神に祈りを捧げ、神の声を聞く」事を使命とする「剣神バハムートの御子」・・・繊細な感性を持つソムヌスは、人一倍敏感だった。
こうして「王の玉座」に座していても、どれだけ彼らの為の言葉を紡いでも・・・多くの国民が自分を王とは思えない、そこに疑いを持っているのだと。
思い知らされる、突き付けられる。
やはり自分には、自分の言葉には・・・兄上のような人々を導く力は無いのだと。
そんなソムヌスを、王剣の一族の長は「お前たちが、祭り上げたのではないか」と・・・正直見ていられなかった。
そして、これ以上は場が持たないとも判断した。このままでは王としての威信を高めるどころか、自分達の物差しでしか考えられない自分勝手な国民達に引き摺り下ろされ、叩き伏せられてしまうだろう。
これ以上続けた所で、事態が好転するとは思えない・・・だから檀上に列していた彼は、式典を切り上げるよう事を運ぼうと考えた。まだ途中ではあったけれど、この様に勝手な連中相手に知った事ではない。
と・・・彼がソムヌスの元へ歩み寄ろうとした、その時。
反対側の舞台袖から現れた、件の・・・今では「ルシス王国宰相」の地位にある男が、両手に収まる程の光沢が美しい天鵞絨の台座を、玉座のソムヌスに厳かに献上した。
それを見止めたソムヌスの「驚き」だけでは表現できない・・・どこか不自然な表情を不思議に思い。そのままソムヌスの元へ歩み寄り、何事かとその台座の上を確認し・・・、
(こ、これは・・・何故此処に!?)
そこに座していたのは、失われた筈の「光輝く指輪」と「水晶の首飾り」。
それはソムヌスにとっても想定外の・・・宰相の企みだったのだろう。
突然の事に固まってしまい、差し出されたそれを受け取る事が出来ない王に代わり、宰相はそれらを国民に示しこう宣言した。
「アーデン様が逝去され一年。
その奇跡の力を宿した神器をソムヌス様に託し、
在るべき世界・・・神々の国へと旅立たれた。」
「これ即ち。
ソムヌス様の即位に際し、
ルシス王国の未来永劫の安寧と発展を願う、
神から授けられた神器に他ならぬ・・・!」
「案ずる事は無い、ルシスの民よ!
アーデン様は・・・神はその祝福を以って、
ソムヌス様をルシス王国の王と認めたのだから!!」
一瞬の沈黙の後。宰相の言葉に「そうだよな」「やっぱり間違っていなかったんだ」「自分達の王は、ソムヌス様だ!」と・・・先程までの静けさから一転、場は狂信的とも言える熱気を帯びる。
東の大陸中から集まった様々な地域の者達が、ルシス王国の民として幼い王を称える。
「我らが王、ソムヌス様!
どうかその神の奇跡で力で祝福で以って、
我らを、お導き下さい!」・・・と。
嘗て大昔、自分達の国を焼き払った悪神・炎神イフリート。
そのせいで、今でも自分達の生活は苦しいのだ・・・と。
その血統に在るアーデンを、主神と崇めるソルハイムを否定したクセに。
その炎神の力が自分達の味方になったと告げられた途端、
掌を返して喜び舞い踊る民らの、何と単純で愚かな事か?
だが・・・それを甘受した上で、我らも演じ続けよう。
彼らがそうである事を望むのであれば、
未来永劫どこまでも、彼らが望む世界である様に。
彼らが永遠に・・・甘美な夢を見続けられるように。
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「貴様っ!これは一体、どう言う事だ!?」
式典の後・・・まで、よく堪えたものだと思う。王剣の一族の中でも若く血の気の多い青年だ・・・壇上で掴み掛からなかっただけでも大したものだ。
とは言え勿論、どの様な理由があったとしても、暴力は許されるものではない。
彼の気持ちは痛いほど理解出来るが・・・この場は年長者である自分が収めるべきだろう。そう判断した一族の長は、宰相を締め上げる青年の肩をそっと叩いた。いたずらに彼を刺激しないよう、努めて自分の感情を押し殺し「やめておけ」とだけ視線で訴え・・・、
「宰相・・・何故貴方が、
我らソルハイムの神器を持っているのだ?」
と・・・一族の長として、目の前の男に答えを求める。
生前旅立つ二人から「指輪」と「首飾り」を預かっていたソムヌスは、その事を誰にも告げていなかった。
なので王剣の一族の者達は「光輝く指輪」と「水晶の首飾り」は、それぞれの持ち主が身に付けたまま行方不明になってしまった・・・と、思い込んでいた。だからこそ「石の玉座」を、現存する唯一の「三種の神器」と思っていた。
しかしそれを言えば、ソムヌスは誰にも告げていなかったのだから・・・、
(僕は誰にも言ってないのに・・・、
何で宰相は、指輪と首飾りの事を?)
何時の間に、気付かれたのだろうか?
もしかしたら、やっぱりあの日・・・一年前の建国の日に、既に気付かれていたのだろうか?
つまり・・・僕の隠し事なんか、最初から?
しかし彼は、ソムヌスのそれを否定した。
「旅立たれたあの日。
お二人は指輪と首飾りを身に付けておられなかった。
だから、どこかに残して行かれたのだろうと。
そう思い、私が一年掛けて探し出した次第です。」
アーデン様は手袋を、エイラ様は旅外套を羽織っておられたので。余程気にして見ていなければ、気付かなかったかもしれませんが・・・と。そう加えられては「常に身に付けているのが当たり前」だと思い込み、まさか「身に付けていなかった」なんて思いもしなかった王剣の一族の者達は黙り込むしかなかった。
しかし、だとしたら・・・二人が男に預けたのでも、二人から男が奪い取ったのでも無い。男が一年掛けて探し出したと言う、その言葉を信じるなら。
「では・・・それら神器は、何処にあったと言うのか?」
突然天から降って湧いた訳ではないだろう・・・探し出したと言うからには、当然「何処か」にはあった筈だ。
その答えを・・・神器が何処にあったのか、ソムヌスは知っていた。
当然だ、自分が隠し持っていたのだから。
自分の部屋のチェストの引き出し・・・あの日から毎日ずっと、そこにあって。
その輝きに二人との想い出を重ね、今日まで自身を奮い立たせてきたのだから。
でも見付かってしまった以上、隠し通す事など出来ない。
自分で説明すべき、なんだろうけど。
「大事なのは、一年掛けて探していた物が、
即位式が行われる今日、見付かったと言う事。
きっとソムヌス様の即位を祝福し、
アーデン様が授けて下さったのでしょう。」
「よくもそんな、心にも無い事を・・・!」
「そう思われるのでしたら、尚更です。
どう答えたところで、
私の言葉を信じる事は、出来ないでしょう。
何処で・・・など、言った処で無意味です。」
今までずっと一緒だった・・・共にアーデンに仕えて来た、王剣の一族の者達では無く。
気付けば宰相に縋っている、頼っている、助けて欲しいと・・・願っている。
「しかし私を信じる事が出来なくても。
今ここに指輪と首飾りが存在する事は、
皆様にとっても、紛れも無い事実・・・違いますか?」
背負ってくれる兄も、手を引いてくれる姉も、居なくなってしまった今。
失った存在が大きすぎて、心にポッカリと穴が空いたままで。
自分はどうすれば良いのか、どうしたいのか・・・自分で道を選べない。
こんな自分が王だなんて、自分が一番信じられない。
「・・・なるほど、確かに。
だがそれでも一つ、確認しておきたい。
貴殿が、置いて行くよう仕組んだ訳では無いのだな?」
「勿論です・・・という私の言葉を、信じて頂けるのなら。」
「・・・分かった。その言葉、信じよう。
ソムヌスも、それで良いだろう?」
「え・・・僕は・・・・・・、」
「・・・なら!ならせめて!
三種の神器は、ソルハイムに由来する物だと。
その事実を公表する事は、許されないのですか!?」
「それは出来ません。
ルシス王国建国と、ソムヌス様の即位を祝う神より授かった。
・・・だからこそ、価値があるのです。」
「三種の神器は、我らがソルハイムの歴史と誇り。
それをお前らの為に、天より神が授けただと?
どれだけ我らから奪えば気が済むのだ・・・ふざけるなっ!」
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「御免なさい、ごめんなさい・・・。」
「・・・何を謝られるのですか?」
あの後、激昂した青年は議場を飛び出してしまい。
一族の長の「各々考える時間が必要だろう」との提案で、その場は解散となった。
そして今は、ソムヌスの部屋。
当たり前のように指輪と首飾りをあった場所に戻す宰相の背中に、ソムヌスは涙を溢しながら謝り続ける事しか出来ない。
「ごめんなさい・・・僕が・・・・・・、」
隠し事をしたせいで、嘘を吐いたせいで、一人では何も出来ないせいで。
「貴方にまで・・・嘘を吐かせてしまった・・・。」
やはり彼は、最初から分かっていたのだ。
旅立つアーデンとエイラは、指輪と首飾りを身に付けていなかった。
だとしたら・・・預かっているのはソムヌスだろう、と。
王剣の一族の者達は、その信頼故に「そんな事がある筈無い」と、三者を疑いもしなかったけれど。彼だけは気付いていた、事実を見落とす事は無かった。
でも建国宣言と即位の日。彼の「三種の神器に関しては・・・」という問い掛けに、ソムヌスは真実を告げず。その様子を見た彼は、自分が神器を預かっている事には触れず黙っていてくれた。
ただ「私からは何も・・・」と自分の意志を尊重し、目を瞑ってくれたのに。
その後一年。結局は、神器の存在を利用するしかなかった・・・彼にそうさせてしまった。自分があまりに無力だったばっかりに。でも・・・、
「私が嘘を吐いたと思われているのでしたら、
それは私を信じていない・・・と言う事です。
私は、嘘を吐いたつもりなど無いのですから。」
「貴方はアーデン様から、この国を託された王です。
そして王とは、決して立ち止まってはならぬ者。
どの様に辛く険しい道であっても胸を張り、
迷える民らを導かねばなりません。」
「我らが、ルシスの王。
私の忠誠は・・・全ては我らが王の為に。
私が貴方を裏切る事など在り得ません。
ですからどうか・・・私を信じて下さい。」
差し伸べられた手に、嘗てのアーデンの面影が過る。
今ここで彼の手を取る事。
それは王剣の一族の者達にすれば、裏切りに値する事かもしれない。
いくら「兄上の為」だと言ったところで、それが本心だとしても・・・そんな事は綺麗事に過ぎない、と。
でも・・・きっともう、後戻りは出来ない。
秘密を嘘を抱えた自分と、これからも共に歩んで欲しいだなんて。そんな自分勝手、言えやしない。
だから秘密を嘘を知った上で。それでも共に歩んでくれると言う男の手を取った、取ってしまった、取るしかなかった。
お前はソルハイムを裏切るのか、と・・・そう詰られても、責められても。
ソルハイムの為、そして「ルシス王国」を真の王に返すその時まで、歩みを止める事など許されないのだから。
二人が戻るまで指輪と首飾りを預かる・・・という約束は、果たせなくなってしまったけど。
イオスの世界に「想い出・記憶」が残っていれば、また何時か何処かの世界で巡り合える筈。
そう信じて、この「ルシス王国」という名の国を育て守っていこう。
このイオスの世界に「ルシス」という名を刻んでおこう。
この国の、真の王が帰還するその日まで・・・兄上ならきっと、気付いてくれる筈。
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その翌日。数名の王剣の一族の者が、ソムヌスの前から・・・ルシス王国から姿を消した。
このような偽りに塗れた国を「ルシス王国」だなど認めない。
きっとアーデン様は、生きておられるに違いない。だから主を迎えに行くのだ、と。
その後、数年の内に。残る王剣の一族の者は半数にまで減ってしまった。
ルシス王国として、様々な国の仕組みが思想が営みが確立されていく中で。
彼らにとって自分達はソルハイムの残滓・・・既にここに自分達の居場所など無いのだ、と。
それから更に年月が流れ・・・。
同一民族としての共通意識を持つに至ったルシスの民らにとって、彼らが信じ続けるソルハイムの思想は異端となっていた。
だから彼らを辺境の地へと追放した・・・その身に「我らと異なる思想・信仰を持つ者である」との罪人の証を刻んで。
そして、今日・・・・・・。
「貴方も、行ってしまうのですね。」
ソムヌスの傍に唯一残っていた王剣の一族の長も・・・彼の下から去って行った。
誰よりもソルハイムを信仰しながらも、ソルハイムの者達とルシスの民らとの融和を図る為なら、と。両者の橋渡し役として、尽力してくれた人物だったが。
だからこそソルハイムの・・・王剣の一族の者達が居なくなった「ルシス王国」に、自分はもう不要だろう、と。
「そんな・・・。
貴方には、どれだけ助けられた事か・・・。」
たった二人になってしまった、ソルハイムの同胞。ルシス王国を想い愛するのと同様に、その真の名の意味を・・・ずっとずっと同じ「想い出・記憶」を大事に抱えてきた。もうこの「ルシス王国」には、その意味を理解し共感出来るのは、互いに互いしか居なかった。
そんな大切な存在が、居なくなってしまう。同じ想いを持つ者が居てくれると言うだけで、どれだけ心の支えになった事か・・・それなのに。
「私も出来る事なら最期まで、
お前の支えとなってやりたかった。
だが今のお前は、ルシス王国の王で。
王を支えるのは、その国の者達だ・・・俺の役目では無い。」
「だが勘違いしないでくれ。
俺はお前を、見限る訳では無い。
俺は一族の長として、
王剣の一族の者達の行方を追いたいんだ。」
「何時かお前が、我らの力を必要とした時に。
再びお前の下に集う・・・その時の為に。
だから今は、俺の勝手を許してくれ。」
自分は、自分が成すべき事を成す。
在るべきものを、在るべき場所へ・・・あるかもしれない何時かの時代・世界の為にも。
「全ては我らが王の為に・・・!」
ルシスの国・・・我らが王の国を。
真の王が帰還されるその日まで、どうか宜しく頼む。
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こうして王剣の一族の者達は、ソムヌスを一人残し去って行った。
故郷より離れた極東の島国で、彼は独りぼっちになってしまった。
兄も姉も、同胞達も・・・彼を置いて、居なくなってしまった。
彼の周りにはもう、こちらの大陸の人間しかいない。
宰相をはじめ「全ては我らが王の為」と・・・ルシス王国の王であるソムヌスに仕え、支えてくれる臣下達が居るのは確かだけれど。それは疑いようも無い事実だけれど。
そうであっても彼らは、ソルハイム王国で生まれ暮らしていた頃のソムヌスを・・・本来あるべき彼の「想い出・記憶」を知らない。
どうすれば良かったんだろう?
どこで間違ってしまったのだろう?
何でこんな事になってしまったのだろう?
何がいけなかったのだろう?
指輪と首飾りの事を、皆に黙っていたから?
新しい国の王位を、断らなかったから?
二人から指輪と首飾りを預かるのを、断らなかったから?
奇跡の道、海を渡る時・・・玉座に座るのを、拒否しなかったから?
それを言うなら、旅立つ時。兄上の言葉に甘えて、玉座に座ってしまったから?
毎夜毎夜そこまで考えて・・・結局それらが、現実から目を逸らしているだけだと帰着する。
原因を探すフリをして、真実から逃げて居るだけだ、と。
他に理由があったと思いたいだけだ、と。
それが原因だと認めたくないだけだ、と。
そう、原因なんて分かり切っている。
一番最初、ソルハイムを旅立つ時。
自分が「兄上と姉上に付いて行きたい」と、我儘を言ったせいだ。
あの時、周りが諭す通り諦めていれば・・・こんな事には、ならなかった。
全部全部・・・自分の我儘から、始まった事だ。
ごめんなさい ごめんなさい
ぼくが あにうえに わがままを いったせいで
ぼくを たすけようと したばっかりに
あにうえは わるものに されてしまった
ぼくが あんなことを いわなければ
あにうえは よいかみさまで いられたのに・・・
ソルハイムの主神は「炎神イフリート」だったけれど。
この国の・・・ルシス王国の民らは、それを悪神と忌み嫌っていたので。
ルシス王国の主神には「剣神バハムート」が選ばれた・・・それはソムヌスが、神と心を通わせる「剣神の一族」の「剣神バハムートの御子」であったから。王と神の一体化という意味で自然と、或いは王の威厳を高める意図を持って。
ごめんなさい
ぼく もう わがまま いわないから
だから あにうえを たすけてあげて・・・
今日も神サマに、罪を告解する。
今日も神サマの、声が聞こえる。
「さ・・・ソムヌス様。
間もなく朝議のお時間です。」
どこか遠い所で、誰かがそう呼び掛ける声が聞こえた・・・気がした。
【『ルシスの禁忌』とは (後日談・1)】
ソムヌスがルシス王国を興して、約1年。旅立った時は10歳にも満たない・・・8歳だった彼は、12歳を過ぎていた。
が・・・それでもたった12歳の少年。
本人が望んだ訳でも無く、多くの民らに望まれ就いた「王の座」だったけれど。
その実、真実を知る者達からすれば「アーデンが王となる筈だった国を、ソムヌスが乗っ取った」ようにも見え。
建国宣言とソムヌスの即位から、1年もしない内に王の威光に翳りが差し。
アーデンの喪明け一年を待たれていた即位式を前に、
「本当に、新たな国の・・・自分達の国の王は、
ソムヌス様で良かったのだろうか?」
と・・・既に国家としての基盤の弱さが露見する有様だった。
幼い少年王・ソムヌスを支えるのは、ソルハイムの頃より共にあった「王剣の一族」と。アーデンとの旅途中で出会い、彼の信頼を得て「臣下」という立場に取り立てられていた者達・・・この二つを中心としていたけれど。
何せ王剣の一族の思想は、彼らの祖国・ソルハイム王国のそれを下地としており。そもそも「ソムヌスを支えるのは、主・アーデンの為」という想いが、彼らの心の支えとなっていたので。新たな国「ルシス王国」に対しても、ソルハイムの在り方を重ねる様なところがあった。
対して臣下達はアーデンを敬い忠誠を誓っていたとはいえ、もともと東の大陸の者達だったので・・・主を失って尚、頑なにアーデンへの信仰を支えとする王剣の一族に比べれば、新たな国に対する姿勢も柔軟だった。
つまり臣下達は「新たな国となったのだから、今の民らの為の国を目指すべきだろう」とし。
それに対し王剣の一族は「ソルハイムの全てを否定するようなやり方は、祖国や主に対する裏切りである」と拒絶。
嘗てアーデンの施しを受け、この御方に付いて行こう・・・と、忠誠を誓い良好な関係にあった臣下達と。東の大陸にも「同じソルハイムの民」と思える者達がいるのだな・・・と、その存在に助けられ認めていた王剣の一族の関係は。
これからは共に新たな国を育て守っていこうと・・・そう誓いを立てたにも拘らず。何時の頃からか少しずつ・・・互いに分かり合えない存在となっていき。
その様な大人たちの諍いに板挟みにされ、幼い王が政を成せる筈も無く。
自分には、何の力も無いのだと。
王としての自信の無さ故に、次第にふさぎ込むようになってしまった。
■□■□■□■□■□■□■□■□
その様な状況での、ルシス王国即位式。
建国宣言とソムヌスの即位から、今日の即位式まで一年の期間が設けられたのは「華々しい式典は、アーデン様の喪が明けてから」との、アーデンを忍ぶ人々を思っての配慮で。
逆を返せば、それは「喪が明けたのだから」という区切りを定めた・・・とも言え。
一年前の周知を目的とした、声明での建国・即位宣言とは異なり。今日の即位式には、それに相応しい舞台が用意され。王の即位を認め祝い結束を強める為にと、島中の人間が・・・ルシス王国の民らが集められた。
が、この日までの一年間の動向によって・・・既にソムヌスの王としての資質が疑われつつあったので。王権側のそのような思惑とは裏腹に。多くの国民がこの今更で大仰な即位式を、どこか冷ややかな目で見ていた。
本当に、あのような幼い少年が王で良かったのか?
彼をこの国の、自分達の王と認めて良かったのか?
嘗て実権を握っていた・・・彼ら自身が「悪神の化身」としながらも。その奇跡の力は本物だと信じていたアーデンの死が有耶無耶なだけに、あれやこれやと事実を伴わない不安が付きまとう。
彼の奇跡の力は、本物だった。
なら・・・やはり彼に付いて行った方が、彼の力に縋った方が良かったのでは?
その様な人々の視線に、本来「神に祈りを捧げ、神の声を聞く」事を使命とする「剣神バハムートの御子」・・・繊細な感性を持つソムヌスは、人一倍敏感だった。
こうして「王の玉座」に座していても、どれだけ彼らの為の言葉を紡いでも・・・多くの国民が自分を王とは思えない、そこに疑いを持っているのだと。
思い知らされる、突き付けられる。
やはり自分には、自分の言葉には・・・兄上のような人々を導く力は無いのだと。
そんなソムヌスを、王剣の一族の長は「お前たちが、祭り上げたのではないか」と・・・正直見ていられなかった。
そして、これ以上は場が持たないとも判断した。このままでは王としての威信を高めるどころか、自分達の物差しでしか考えられない自分勝手な国民達に引き摺り下ろされ、叩き伏せられてしまうだろう。
これ以上続けた所で、事態が好転するとは思えない・・・だから檀上に列していた彼は、式典を切り上げるよう事を運ぼうと考えた。まだ途中ではあったけれど、この様に勝手な連中相手に知った事ではない。
と・・・彼がソムヌスの元へ歩み寄ろうとした、その時。
反対側の舞台袖から現れた、件の・・・今では「ルシス王国宰相」の地位にある男が、両手に収まる程の光沢が美しい天鵞絨の台座を、玉座のソムヌスに厳かに献上した。
それを見止めたソムヌスの「驚き」だけでは表現できない・・・どこか不自然な表情を不思議に思い。そのままソムヌスの元へ歩み寄り、何事かとその台座の上を確認し・・・、
(こ、これは・・・何故此処に!?)
そこに座していたのは、失われた筈の「光輝く指輪」と「水晶の首飾り」。
それはソムヌスにとっても想定外の・・・宰相の企みだったのだろう。
突然の事に固まってしまい、差し出されたそれを受け取る事が出来ない王に代わり、宰相はそれらを国民に示しこう宣言した。
「アーデン様が逝去され一年。
その奇跡の力を宿した神器をソムヌス様に託し、
在るべき世界・・・神々の国へと旅立たれた。」
「これ即ち。
ソムヌス様の即位に際し、
ルシス王国の未来永劫の安寧と発展を願う、
神から授けられた神器に他ならぬ・・・!」
「案ずる事は無い、ルシスの民よ!
アーデン様は・・・神はその祝福を以って、
ソムヌス様をルシス王国の王と認めたのだから!!」
一瞬の沈黙の後。宰相の言葉に「そうだよな」「やっぱり間違っていなかったんだ」「自分達の王は、ソムヌス様だ!」と・・・先程までの静けさから一転、場は狂信的とも言える熱気を帯びる。
東の大陸中から集まった様々な地域の者達が、ルシス王国の民として幼い王を称える。
「我らが王、ソムヌス様!
どうかその神の奇跡で力で祝福で以って、
我らを、お導き下さい!」・・・と。
嘗て大昔、自分達の国を焼き払った悪神・炎神イフリート。
そのせいで、今でも自分達の生活は苦しいのだ・・・と。
その血統に在るアーデンを、主神と崇めるソルハイムを否定したクセに。
その炎神の力が自分達の味方になったと告げられた途端、
掌を返して喜び舞い踊る民らの、何と単純で愚かな事か?
だが・・・それを甘受した上で、我らも演じ続けよう。
彼らがそうである事を望むのであれば、
未来永劫どこまでも、彼らが望む世界である様に。
彼らが永遠に・・・甘美な夢を見続けられるように。
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「貴様っ!これは一体、どう言う事だ!?」
式典の後・・・まで、よく堪えたものだと思う。王剣の一族の中でも若く血の気の多い青年だ・・・壇上で掴み掛からなかっただけでも大したものだ。
とは言え勿論、どの様な理由があったとしても、暴力は許されるものではない。
彼の気持ちは痛いほど理解出来るが・・・この場は年長者である自分が収めるべきだろう。そう判断した一族の長は、宰相を締め上げる青年の肩をそっと叩いた。いたずらに彼を刺激しないよう、努めて自分の感情を押し殺し「やめておけ」とだけ視線で訴え・・・、
「宰相・・・何故貴方が、
我らソルハイムの神器を持っているのだ?」
と・・・一族の長として、目の前の男に答えを求める。
生前旅立つ二人から「指輪」と「首飾り」を預かっていたソムヌスは、その事を誰にも告げていなかった。
なので王剣の一族の者達は「光輝く指輪」と「水晶の首飾り」は、それぞれの持ち主が身に付けたまま行方不明になってしまった・・・と、思い込んでいた。だからこそ「石の玉座」を、現存する唯一の「三種の神器」と思っていた。
しかしそれを言えば、ソムヌスは誰にも告げていなかったのだから・・・、
(僕は誰にも言ってないのに・・・、
何で宰相は、指輪と首飾りの事を?)
何時の間に、気付かれたのだろうか?
もしかしたら、やっぱりあの日・・・一年前の建国の日に、既に気付かれていたのだろうか?
つまり・・・僕の隠し事なんか、最初から?
しかし彼は、ソムヌスのそれを否定した。
「旅立たれたあの日。
お二人は指輪と首飾りを身に付けておられなかった。
だから、どこかに残して行かれたのだろうと。
そう思い、私が一年掛けて探し出した次第です。」
アーデン様は手袋を、エイラ様は旅外套を羽織っておられたので。余程気にして見ていなければ、気付かなかったかもしれませんが・・・と。そう加えられては「常に身に付けているのが当たり前」だと思い込み、まさか「身に付けていなかった」なんて思いもしなかった王剣の一族の者達は黙り込むしかなかった。
しかし、だとしたら・・・二人が男に預けたのでも、二人から男が奪い取ったのでも無い。男が一年掛けて探し出したと言う、その言葉を信じるなら。
「では・・・それら神器は、何処にあったと言うのか?」
突然天から降って湧いた訳ではないだろう・・・探し出したと言うからには、当然「何処か」にはあった筈だ。
その答えを・・・神器が何処にあったのか、ソムヌスは知っていた。
当然だ、自分が隠し持っていたのだから。
自分の部屋のチェストの引き出し・・・あの日から毎日ずっと、そこにあって。
その輝きに二人との想い出を重ね、今日まで自身を奮い立たせてきたのだから。
でも見付かってしまった以上、隠し通す事など出来ない。
自分で説明すべき、なんだろうけど。
「大事なのは、一年掛けて探していた物が、
即位式が行われる今日、見付かったと言う事。
きっとソムヌス様の即位を祝福し、
アーデン様が授けて下さったのでしょう。」
「よくもそんな、心にも無い事を・・・!」
「そう思われるのでしたら、尚更です。
どう答えたところで、
私の言葉を信じる事は、出来ないでしょう。
何処で・・・など、言った処で無意味です。」
今までずっと一緒だった・・・共にアーデンに仕えて来た、王剣の一族の者達では無く。
気付けば宰相に縋っている、頼っている、助けて欲しいと・・・願っている。
「しかし私を信じる事が出来なくても。
今ここに指輪と首飾りが存在する事は、
皆様にとっても、紛れも無い事実・・・違いますか?」
背負ってくれる兄も、手を引いてくれる姉も、居なくなってしまった今。
失った存在が大きすぎて、心にポッカリと穴が空いたままで。
自分はどうすれば良いのか、どうしたいのか・・・自分で道を選べない。
こんな自分が王だなんて、自分が一番信じられない。
「・・・なるほど、確かに。
だがそれでも一つ、確認しておきたい。
貴殿が、置いて行くよう仕組んだ訳では無いのだな?」
「勿論です・・・という私の言葉を、信じて頂けるのなら。」
「・・・分かった。その言葉、信じよう。
ソムヌスも、それで良いだろう?」
「え・・・僕は・・・・・・、」
「・・・なら!ならせめて!
三種の神器は、ソルハイムに由来する物だと。
その事実を公表する事は、許されないのですか!?」
「それは出来ません。
ルシス王国建国と、ソムヌス様の即位を祝う神より授かった。
・・・だからこそ、価値があるのです。」
「三種の神器は、我らがソルハイムの歴史と誇り。
それをお前らの為に、天より神が授けただと?
どれだけ我らから奪えば気が済むのだ・・・ふざけるなっ!」
■□■□■□■□■□■□■□■□
「御免なさい、ごめんなさい・・・。」
「・・・何を謝られるのですか?」
あの後、激昂した青年は議場を飛び出してしまい。
一族の長の「各々考える時間が必要だろう」との提案で、その場は解散となった。
そして今は、ソムヌスの部屋。
当たり前のように指輪と首飾りをあった場所に戻す宰相の背中に、ソムヌスは涙を溢しながら謝り続ける事しか出来ない。
「ごめんなさい・・・僕が・・・・・・、」
隠し事をしたせいで、嘘を吐いたせいで、一人では何も出来ないせいで。
「貴方にまで・・・嘘を吐かせてしまった・・・。」
やはり彼は、最初から分かっていたのだ。
旅立つアーデンとエイラは、指輪と首飾りを身に付けていなかった。
だとしたら・・・預かっているのはソムヌスだろう、と。
王剣の一族の者達は、その信頼故に「そんな事がある筈無い」と、三者を疑いもしなかったけれど。彼だけは気付いていた、事実を見落とす事は無かった。
でも建国宣言と即位の日。彼の「三種の神器に関しては・・・」という問い掛けに、ソムヌスは真実を告げず。その様子を見た彼は、自分が神器を預かっている事には触れず黙っていてくれた。
ただ「私からは何も・・・」と自分の意志を尊重し、目を瞑ってくれたのに。
その後一年。結局は、神器の存在を利用するしかなかった・・・彼にそうさせてしまった。自分があまりに無力だったばっかりに。でも・・・、
「私が嘘を吐いたと思われているのでしたら、
それは私を信じていない・・・と言う事です。
私は、嘘を吐いたつもりなど無いのですから。」
「貴方はアーデン様から、この国を託された王です。
そして王とは、決して立ち止まってはならぬ者。
どの様に辛く険しい道であっても胸を張り、
迷える民らを導かねばなりません。」
「我らが、ルシスの王。
私の忠誠は・・・全ては我らが王の為に。
私が貴方を裏切る事など在り得ません。
ですからどうか・・・私を信じて下さい。」
差し伸べられた手に、嘗てのアーデンの面影が過る。
今ここで彼の手を取る事。
それは王剣の一族の者達にすれば、裏切りに値する事かもしれない。
いくら「兄上の為」だと言ったところで、それが本心だとしても・・・そんな事は綺麗事に過ぎない、と。
でも・・・きっともう、後戻りは出来ない。
秘密を嘘を抱えた自分と、これからも共に歩んで欲しいだなんて。そんな自分勝手、言えやしない。
だから秘密を嘘を知った上で。それでも共に歩んでくれると言う男の手を取った、取ってしまった、取るしかなかった。
お前はソルハイムを裏切るのか、と・・・そう詰られても、責められても。
ソルハイムの為、そして「ルシス王国」を真の王に返すその時まで、歩みを止める事など許されないのだから。
二人が戻るまで指輪と首飾りを預かる・・・という約束は、果たせなくなってしまったけど。
イオスの世界に「想い出・記憶」が残っていれば、また何時か何処かの世界で巡り合える筈。
そう信じて、この「ルシス王国」という名の国を育て守っていこう。
このイオスの世界に「ルシス」という名を刻んでおこう。
この国の、真の王が帰還するその日まで・・・兄上ならきっと、気付いてくれる筈。
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その翌日。数名の王剣の一族の者が、ソムヌスの前から・・・ルシス王国から姿を消した。
このような偽りに塗れた国を「ルシス王国」だなど認めない。
きっとアーデン様は、生きておられるに違いない。だから主を迎えに行くのだ、と。
その後、数年の内に。残る王剣の一族の者は半数にまで減ってしまった。
ルシス王国として、様々な国の仕組みが思想が営みが確立されていく中で。
彼らにとって自分達はソルハイムの残滓・・・既にここに自分達の居場所など無いのだ、と。
それから更に年月が流れ・・・。
同一民族としての共通意識を持つに至ったルシスの民らにとって、彼らが信じ続けるソルハイムの思想は異端となっていた。
だから彼らを辺境の地へと追放した・・・その身に「我らと異なる思想・信仰を持つ者である」との罪人の証を刻んで。
そして、今日・・・・・・。
「貴方も、行ってしまうのですね。」
ソムヌスの傍に唯一残っていた王剣の一族の長も・・・彼の下から去って行った。
誰よりもソルハイムを信仰しながらも、ソルハイムの者達とルシスの民らとの融和を図る為なら、と。両者の橋渡し役として、尽力してくれた人物だったが。
だからこそソルハイムの・・・王剣の一族の者達が居なくなった「ルシス王国」に、自分はもう不要だろう、と。
「そんな・・・。
貴方には、どれだけ助けられた事か・・・。」
たった二人になってしまった、ソルハイムの同胞。ルシス王国を想い愛するのと同様に、その真の名の意味を・・・ずっとずっと同じ「想い出・記憶」を大事に抱えてきた。もうこの「ルシス王国」には、その意味を理解し共感出来るのは、互いに互いしか居なかった。
そんな大切な存在が、居なくなってしまう。同じ想いを持つ者が居てくれると言うだけで、どれだけ心の支えになった事か・・・それなのに。
「私も出来る事なら最期まで、
お前の支えとなってやりたかった。
だが今のお前は、ルシス王国の王で。
王を支えるのは、その国の者達だ・・・俺の役目では無い。」
「だが勘違いしないでくれ。
俺はお前を、見限る訳では無い。
俺は一族の長として、
王剣の一族の者達の行方を追いたいんだ。」
「何時かお前が、我らの力を必要とした時に。
再びお前の下に集う・・・その時の為に。
だから今は、俺の勝手を許してくれ。」
自分は、自分が成すべき事を成す。
在るべきものを、在るべき場所へ・・・あるかもしれない何時かの時代・世界の為にも。
「全ては我らが王の為に・・・!」
ルシスの国・・・我らが王の国を。
真の王が帰還されるその日まで、どうか宜しく頼む。
■□■□■□■□■□■□■□■□
こうして王剣の一族の者達は、ソムヌスを一人残し去って行った。
故郷より離れた極東の島国で、彼は独りぼっちになってしまった。
兄も姉も、同胞達も・・・彼を置いて、居なくなってしまった。
彼の周りにはもう、こちらの大陸の人間しかいない。
宰相をはじめ「全ては我らが王の為」と・・・ルシス王国の王であるソムヌスに仕え、支えてくれる臣下達が居るのは確かだけれど。それは疑いようも無い事実だけれど。
そうであっても彼らは、ソルハイム王国で生まれ暮らしていた頃のソムヌスを・・・本来あるべき彼の「想い出・記憶」を知らない。
どうすれば良かったんだろう?
どこで間違ってしまったのだろう?
何でこんな事になってしまったのだろう?
何がいけなかったのだろう?
指輪と首飾りの事を、皆に黙っていたから?
新しい国の王位を、断らなかったから?
二人から指輪と首飾りを預かるのを、断らなかったから?
奇跡の道、海を渡る時・・・玉座に座るのを、拒否しなかったから?
それを言うなら、旅立つ時。兄上の言葉に甘えて、玉座に座ってしまったから?
毎夜毎夜そこまで考えて・・・結局それらが、現実から目を逸らしているだけだと帰着する。
原因を探すフリをして、真実から逃げて居るだけだ、と。
他に理由があったと思いたいだけだ、と。
それが原因だと認めたくないだけだ、と。
そう、原因なんて分かり切っている。
一番最初、ソルハイムを旅立つ時。
自分が「兄上と姉上に付いて行きたい」と、我儘を言ったせいだ。
あの時、周りが諭す通り諦めていれば・・・こんな事には、ならなかった。
全部全部・・・自分の我儘から、始まった事だ。
ごめんなさい ごめんなさい
ぼくが あにうえに わがままを いったせいで
ぼくを たすけようと したばっかりに
あにうえは わるものに されてしまった
ぼくが あんなことを いわなければ
あにうえは よいかみさまで いられたのに・・・
ソルハイムの主神は「炎神イフリート」だったけれど。
この国の・・・ルシス王国の民らは、それを悪神と忌み嫌っていたので。
ルシス王国の主神には「剣神バハムート」が選ばれた・・・それはソムヌスが、神と心を通わせる「剣神の一族」の「剣神バハムートの御子」であったから。王と神の一体化という意味で自然と、或いは王の威厳を高める意図を持って。
ごめんなさい
ぼく もう わがまま いわないから
だから あにうえを たすけてあげて・・・
今日も神サマに、罪を告解する。
今日も神サマの、声が聞こえる。
「さ・・・ソムヌス様。
間もなく朝議のお時間です。」
どこか遠い所で、誰かがそう呼び掛ける声が聞こえた・・・気がした。
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