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FF15:レガリア(TYPE-F)で1000年の時を超える話《新約 56》
- 2025/11/06 (Thu) |
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《今回の御品書き (FF15・二次創作モドキです) 》
【『ルシスの禁忌』とは (訃報~新たな国)】
《今回の御品書き (FF15・二次創作モドキです) 》
【『ルシスの禁忌』とは (訃報~新たな国)】
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【『ルシスの禁忌』とは (訃報~新たな国)】
「そんな、まさか・・・。
アーデン様が、亡くなられたなど・・・。」
伝令役だった二人からの、思いもよらなかった報告を受け。ポツリとそう漏らしたのが誰だったのか・・・ソムヌスはもう思い出せなかった。
事の経緯は、伝令役の臣下二人に同行しやって来たミルスより語られた。
二人の食事を運ぶ際、炎神の祭壇へと続く橋の一部が崩れ落ち。
その拍子に転落しそうになったミルスを助けようと、アーデンは身を乗り出し手を差し伸べ。
彼女を引き上げると同時に、今度は重さに耐えかねたアーデンの足元が崩れ落ち。
「アーデン様は・・・私を助ける為に。
私を助けたばかりに・・・橋から、谷底に・・・・・・、」
転落してしまった、と。
だから、彼女ははっきりと「亡くなった」と言ったのでは無かったけど。あの山を知るソルハイムの人間にすれば、あの場から転落して助かるとは思えない・・・そんな事は分かり切っていて。それに、
「エイラ様は、アーデン様の後を追って・・・いかれました。」
エイラが後を追ったという事実が「エイラ様が後を追われたのだから、間違い無いのだろう」と、アーデンの死を後押しした。もしも生きている見込みがあるのなら、彼女がそのような事をする訳が無いのだから。
こうして突き付けられた、二人の「死」という現実を前にして。
幼いソムヌスはあまりに無力で、どうしていいか分からなくて、ただ立ち尽くすしかなくて。
「不慮の事故でアーデン様が亡くなられた今。
新たな国の王は、その志を継ぐソムヌス様しかありえません。
王剣の一族の皆様も、宜しいですね?」
自分の名前に反応したものの、
「え・・・この様な時に、何を?
今は、それどころでは・・・・・・、」
正直、彼が何を言っているのか理解出来なかった。
彼はどの様な時でも冷静で、誰だかは「目的の為なら手段を選ばない」などと言っていたけれど。
「この様な時だからこそ、です。
偉大なる先導者を失った今、
路頭に迷う民に必要なのは、それに代わる先導者です。」
それは、そうかもしれない。東の大陸の者達にとっては、そうかもしれない。
けど・・・王剣の一族の者達にとっては、そうではない。
何故ならソルハイムの人間・・・王剣の一族の者達が忠誠と献身を捧げるのは、炎神イフリートの血統に在る「ソルハイムの王・アーデン」であって。
例えソムヌスが神の兄妹弟・・・剣神バハムートの御子であっても、アーデンの代わりにはなれなず。
故に、主に仕える事を使命として生きて来た彼らが、アーデンに代わりソムヌスが王だなど・・・思える筈が無い。
だからソムヌスは彼らを・・・そして自分自身を救う事は出来ない。
と、その時。重苦しい沈黙を破って、誰かが絞り出すような声で呟いた。
「・・・段取りが良過ぎる。
これでお前の狙い通りと言う訳か?」
あの言い方では、そう思われても仕方が無いだろう・・・と言うか。皆、内心そう思っていたのかもしれない。
「伝令役だなんだ言って、
自分の息の掛かった刺客をお二人に付け。
最初から、アーデン様を亡き者にしようと・・・。」
「そ、そうだ!
橋が崩れたのだって、
あいつらが細工したんじゃないのか?!」
「確かに・・・。
そうでもなければ炎神の祭壇・・・あのような聖域で、
アーデン様が命を奪われるなど・・・、」
ボロボロと、心の内が零れ出す・・・心に巣くう「黒い感情」が、まるで病の様に周囲の者を侵していく。
しかしその病を治す術を、力を、言葉を、ソムヌスは持たない。
やはり自分では、彼らを「救う」事は出来ない・・・兄上の代わりにはなれないと、思い知らされるばかりで。
「それは違います!
炎神の祭壇は、我らソルハイムの民にとって聖域。
故に、お二人に麓の旅所で待たれてはと、
申し出たのは我々の方です。」
ですから、お二人は聖域・・・炎神の祭壇どころか、祀る山一帯にも踏み入ってはいない。その様な細工など、出来る筈がありません!
割って入ったミルスの主張に、今度は不自然な程の沈黙が戻って来た。
それはそうだろう・・・彼らが彼女の立場でも、信仰が異なる二人には麓での滞在を願い出ただろうし。
あの山を聖域と信仰し、他所の人間が立ち入る事を良しとしないのなら「何故、お二人の傍を離れたのだ?!」と、今更責める事も出来ない。
誰かは「あのような聖域で、アーデン様が命を奪われるなど」と言ったけれど・・・「あのような聖域」だからこそ、二人の臣下達はアーデン達の「死」に関与する事は出来なかった筈だ。
だからアーデンは、本当に事故死だったのだと。
「そんな、まさか・・・。
アーデン様が、亡くなられたなど・・・。」
どれだけ信じられなくても、信じたくなくても・・・今はもう、彼女の言葉を信じるしかない。
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今まで彼らを・・・ソルハイムの民を導き続けてくれたアーデンは、もう戻って来ない。
そして「対の娘」として、アーデンと共にあったエイラも。
これから自分達は、どうすれば良いのだろうか?
勿論その様な重大事項、直ぐに決められる筈も無く。彼らは全体会合の後、王剣の一族にミルスを加えた13人で、今後どうするか話し合う事になった。
とは言っても・・・実際のところ、彼らの想いは一つだった。
ここまで導いてくれたアーデン亡き今、この地に留まる理由は無くなった。
だからこの地は彼らに託し、自分達はソルハイムに戻ろう・・・と。
その場では口にしなかったけど、王剣の一族の皆はそう思っていたに違いない。
そもそもアーデンの居ないこの地にソルハイムの民を移住させるなんて・・・そんなの何の為に?
きっと民らだってアーデンが居ないのなら、主の居ない土地に移る位なら。どんなに生活が苦しくても、ソルハイム本国で生きて行く事を選ぶだろう・・・本当に意味が見出せない。
でも、その「当たり前」を、彼の言葉が突き動かす・・・「当たり前」という言葉は、思考の放棄だと責める様に。
「私は皆様を追放し、
この島を我が物にしよう・・・などとは考えておりません。
今後もこの島の為、国の為、民の為、
力を貸して頂ければと思っております。」
自分が進む道なのだから・・・「当たり前」では無く、自ら考え、自らの意思で選び取れ、と。
「ですが、それを強制する権利など私は持ちません。
どうされるかは・・・、
アーデン様の言葉に従い「この島に残る」か。
アーデン様の言葉に背き「この島を去る」か。
選べる道は、二つに一つ。
どうか・・・ご自身で、ご決断下さい。」
例え選べる道が・・・目の前に伸びる道が、二つしかないとしても。
どちらを選んでも、苦難の道でしかないとしても。
確かにアーデンは旅立つ前に、こう言っていた。
「移住してくるソルハイムの民の為にも、
その力は島の・・・新たな国の為に使ってもらいたい」
「君たちの知恵と技術があれば、
どのような困難にも対処出来るだろう。
私達が戻るまで、その力で皆を守って欲しい。」と。
でも・・・だからって、そんな言い方ズルいと思う。
だってまさか、こんな事になるとは思ってなかったし。
兄上だって、そんなつもりで言っていた訳では無い・・・と思う、その言葉を引っ張って来て。
兄上の言葉に従い「この島に残る」か、背き「この島を去る」か・・・どちらかを選べなんて、そんな風に言われたら。
「王剣の一族の使命は、アーデン様に仕える事。
その主亡き今、我々がこの島に留まる理由など無い。」
「しかしアーデン様は、
この島を移住先にと望んでおられた。
それを捨て帰るのは・・・、」
「ソルハイムの民が、
この地へと移住を望むとは思えぬ。
移り住んだ所で、
主は・・・アーデン様は居られぬのだから。」
「それは、そうかもしれませんが。
アーデン様は、全てのソルハイムの民の為、と。
ならば、この島の発展を支えるのも、
我らが果たすべき使命では無いでしょうか?」
「此方の人間こそ、そんな事は望んでいないだろう。
炎神イフリートを悪神とした挙句、
アーデン様まで貶める様な連中だ。
俺らが居なくなった方が、精々するだろうよ。」
「だが、漁師達や臣下達など、
我々に協力してくれた者達が居るのも事実だ。
そのような者達まで一括りに切り捨てるのは、
我らの信仰に反するのではないか?」
「彼らが我々に協力してくれたのは、
アーデン様自身に惹かれてであって、
炎神イフリートを信仰している訳では無い。
そんな彼らに、我らの信仰を持ち出して何になる?」
「信仰は強いるものでは無い。
事実、アーデン様も炎神信仰を強要されなかった。
ただ、同じソルハイムの民なのだから・・・と。
同胞なら分かり合えると、信じておられたのだろう。」
「・・・では、何か?
奴らと分かり合う為に、我らに炎神信仰を捨てよと?
主を失い、信仰を捨て、祖国にも戻れず・・・そうまでして何の為に!?」
「アーデン様のお言葉に添う為、だ。
主の心の内など、我々に理解できる筈も無い。
ならば、最後の言葉に従うしかないだろう。」
「だから状況が、前提が違うと言っている!
そんな勝手な言い分・・・俺は納得出来ない。
そこまで言うなら、残りたい奴だけ残ればイイだろう!?」
「止めてください!
王剣の一族が内部分裂など、あってはならない事です。
それにこのような言い争い・・・兄上がどう思われるか。」
ソムヌスの悲痛な声に、渋々と言った態で場が収まる。
収まりはしたものの・・・兄上なら、もっと上手に収められるだろう、と。力が足りない・・・言葉に力を宿すだけの力が。それが歯痒く、もどかしい。
時のアーデンより王剣の一族の称号を受けて数百年。剣の名を冠する12の一族は、それぞれが培い貯えて来た知識・技術を持ち寄り。常に王の神のそして国の為にとアーデンに忠誠を捧げ、一族に課せられた任を果たして来た。
それはつまり、アーデンを要に12の一族の結束は固く結ばれ・・・数百年もの間、意見の相違から仲違いする事も、いずれかが欠ける事も無かったと言う事で。
だからこそ、この様な事態は初めてだった。こんな要を失った扇の様な・・・皆が皆、どうすれば良いのかバラバラで。
「・・・アーデン様亡き今、
我らは自分達で進む道を選ばねばならない。
しかしソムヌスの言う通り、
王剣の一族が内部分裂など、あってはならない事だ。
それこそアーデン様に、申し訳が立たない。」
だから「この島に残る」か「この島を去る」か・・・多数決で決めよう、と。
「この面子で多数決とは・・・初めてだな。」
「今までは、アーデン様の言葉が全てだったからな。
多数決なんて必要なかった。」
「だが・・・アーデン様亡き今。
多数決が一番、皆が納得出来る決定手段だろう。」
「つまり、どちらに決まっても・・・・・・、」
王剣の一族としての使命を果す為「この島に残る」か「この島を去る」か・・・全員がその決定に従う事。
その結果は・・・・・・、
王剣の一族12名の内「この島に残る」が6票、「この島を去る」が6票。
「同数とは・・・。
多数決が一番適していると思ったが、
なかなかに難しいモノだな。」
全ての「決定」をアーデンに任せていた事が、如何に楽な事だったのかを思い知る。
「では、どうする?
多数決では、何度やっても結果は変わらないだろ。
勝ち抜けジャンケンで決めるか?」
本気で言っている訳では無い事は、その仕草・表情からも窺い知れるが。
「全くお前は・・・。
こんな時に、ふざけた事を言うな。」
「そうだな、
ジャンケンで決める位なら・・・・・・、」
「ミルス様。
貴方なら、アーデン様はどちらを望まれると思いますか?」
剣神の一族の代表としては、ソムヌスが同行していたが。
ミルスも剣神の一族の者であり、何より次代の炎神イフリートの母となるかもしれなかった娘・・・王剣の一族での票が半数に割れた今、彼女ほど最後の決断を委ねるに相応しい人間は居ないだろう。
とは言え・・・ミルス自身は、この場では部外者と自らの立場を弁え、部屋の隅で彼らの遣り取りを見守っていただけで。まさかその様な重大な選択を任されるなんて想定外で。
ソルハイムの中枢を担う王剣の一族の代表者達の視線を一身に浴び、咄嗟に機転の利いた言葉が出て来るわけも無く。どう答えたものか・・・それなり時間が経ったようにも思うし、意外にもすんなりと言葉に出来たようにも思う。
アーデン様なら・・・眼裏に焼き付くその姿を、生き様を手繰り寄せる。
ソルハイムの仕来りとして、神成・・・次代の炎神イフリートを成す定めにあった自分。
でも?だから?
それは仕来りであって、私個人への思慕の情愛は当たり前に無かったように思う。多分私に向けられていたのは、全てのソルハイムの民を愛する博愛のそれであって・・・私が、私だけが特別だった訳では無い。
それに特別・・・と言う意味では、アーデン様にとって「対の娘」という唯一の存在であるエイラ様が、私は羨ましかった。
勿論、その事についてエイラ様に告白する事は無かったけれど。
きっとエイラ様は、その特別故に苦しまれていたのだろうけど。
私達は「アーデン(様)なのだから・・・」と、そう思う事が出来た。
それ程にあの人は「ソルハイムの王」だった・・・誰よりも何よりも、ソルハイムに全てを捧げ愛した人。その様な人だったから・・・・・・、
「確かにソルハイムは過酷な環境にありますが、
千年以上の歴史を紡いで来た国です。
それに対しこの国は・・・未だ王も名も定まっていない、
生まれたばかりの赤子の様なもの。」
全てのソルハイムの民が、心穏やかであれるようにと願った・・・その為に、全てを捧げたあの人なら、
「だとすれば・・・アーデン様は、
皆様には生まれたばかりのこの国を、
育て守ってやって欲しいと。
そう、願われるのではないでしょうか?」
アーデンは火山の冬による寒冷化を機に、未来永劫ソルハイムの民が安定した生活が出来る土地を求め旅立ったが。長い歴史を持つ成熟したソルハイム本国にすれば、未だ辛く厳しい寒さではあるけれど、今まで培ってきた知識や技術を駆使し、若干の不自由や犠牲に目を瞑りさえすれば生きていけない程の環境では無い。
それに本国には彼らの一族の者達も残っている・・・豊かな土地では無くても、きっと逞しく生きて行けるだろう。
ミルスの言葉に、異を唱える者は居なかった。
その通りだと・・・きっとアーデン様なら、と思えたから。
いや、本当は分かっていた。
自分が死んだからと言って「じゃあ、ソルハイムに戻っていいよ」なんて・・・言う筈が無い、と。
分かっていたけど、分かっていたけど・・・主の為に、主以外の者に仕えるのも。遠く離れたこの国の為に、故郷を捨てる事になるのも。
それが主が望みだと分かっていても。
王を国を愛して止まないからこそ、そう簡単に割り切る事なんて出来なかった。
でも、決断しなければならないのだろう。
主より託された志を引き継ぎ・・・その尊い生き様に報いる為に、
「では我ら王剣の一族は、アーデン様の遺志を継ぎ。
今後、この島の・・・国の発展に尽くす事とする。」
立ち止まる事は許されない・・・常に前を見据え歩み続けたあの人の背を追うように。
「だが・・・我らの祖国はソルハイム王国であり、
我らが忠誠を捧げる王は、アーデン様である。
例えこの地に骨を埋める事になろうとも、
我らの心が故郷を・・・王を違え忘れる事は無い。」
何時かの時代、何時かの世界・・・この国に戻った主に、誇れる国であるように。
「全ては 我らが 王の為に・・・!」
「「「全ては 我らが 王の為に・・・!」」」
全ては 我らが 王の為に・・・生まれたばかりのこの国を、育て守っていこう。
そう、この国の為では無い・・・誓う言葉の全ては主の為、故郷の為。
それを貴方は嘆くだろうか?
でも・・・それ位は、許して欲しいと思う。誰にも明かす事の無い、自分の心の内くらい。
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「疲れているところを、すまないな。」
「・・・いえ、お気遣い有難うございます。」
話し合いの後。割り当てられた部屋の前でソムヌスを呼び止めたのは、組織としては平等である王剣の一族の者達が「自分達の長」と認める最年長の男で。無理やり付いて来たに等しいソムヌスに対し厳しく当たる者達も居る中、相応に厳しくも励まし檄してくれた・・・ソムヌス自身最も信を置いている人物だった。
だから・・・と言う訳ではないけれど。
これを「甘え」だとは、思われたくないけれど。
「これから僕は・・・どうすれば良いのでしょうか?」
十と少し・・・年相応の本音が、スルリと零れ落ちる。
件の彼は「不慮の事故でアーデン様が亡くなられた今。新たな国の王は、その志を継ぐソムヌス様しかありえません。」と・・・そう言っていた。そうでなくとも、ずっと以前から「自分を王に・・・」という動きがある事も知っていた。
でもソルハイムの王は「王はアーデンであり、アーデンは王である」と決まっている。そんな事を言われたって「はい、そうですか」と、すんなり受け入れられる筈が無い。
しかし目の前の男も・・・それに対する答えを持たない。ソムヌスはアーデンとエイラとは「神の兄妹弟」として、当に兄姉弟として育てられてきたのだから。同じ王剣の一族とは言え、その喪失感は自分達と同じ・・・と、一括りにしてしまうのは酷だろう。
でも・・・だからこそ、言っておかなければならない。
「お二人が亡くなり皆、胸が引き裂かれる思いだが。
一番辛く悲しい思いをしているのは、やはりお前だろう。」
「しかしアーデン様が、この地に新たな国を・・・、
新生ソルハイム王国をと願っておられたのなら。
その志を継げるのは、一番主の側に在ったお前だと。
そう・・・思われるのではないだろうか?」
でも・・・だからこそ、言っておかなければならない。
「だが、その反面。
お前がソルハイムの王を名乗る事が、
耐えられない者達が居るのも事実だ。
彼らにとってのソルハイムの王はアーデン様であり、
それだけが・・・彼らの心の支えだからだ。」
「だから新たな国の名は、
ソルハイムではない・・・別の名にしてやって欲しい。
ソルハイムの王に生涯の忠誠を誓い、
主が逝って尚、献身を捧げる彼らの為に・・・どうか頼む。」
それは・・・そうだろう。
アーデンが王位に就くからこそ『新生ソルハイム王国』としていたのであって。王位に就くのがアーデンでないのなら「ソルハイム」を名乗る事は出来ないし。
それこそ、アーデンの逝去により本国からの移住計画の見込みが薄くなった今。本国を残したまま、こちらが『新生ソルハイム王国』を名乗る事など出来ない。
それに何より・・・国にとって最も大切な民らが、それを望まないだろう。東の大陸の者達にとってソルハイムは、自分達を裏切った炎神イフリートを主神と崇める国なのだから。
ソルハイムを国の礎としながらも、それを誇る事も、語り継ぐ事も、記録に刻む事も。
その名を掲げる事も、炎神を主神に祀る事も。
初代国王となる筈だった男の名を残す事も・・・きっと叶わない、許されない。
だから、だからこそ・・・。
「分かりました。
まだ、どうなるか分かりませんが。
皆さんの想いに報いる事が出来る名を、
僕なりに、考えてみます・・・。」
何時かの時代、何時かの世界に兄上が戻られる日まで。
その日を夢見て、この新しい国を育て守り抜こう。
例えどの様な犠牲を払う事になっても・・・それが兄上からこの国を預かった僕の使命だと、そう心に刻んで。
【『ルシスの禁忌』とは (訃報~新たな国)】
「そんな、まさか・・・。
アーデン様が、亡くなられたなど・・・。」
伝令役だった二人からの、思いもよらなかった報告を受け。ポツリとそう漏らしたのが誰だったのか・・・ソムヌスはもう思い出せなかった。
事の経緯は、伝令役の臣下二人に同行しやって来たミルスより語られた。
二人の食事を運ぶ際、炎神の祭壇へと続く橋の一部が崩れ落ち。
その拍子に転落しそうになったミルスを助けようと、アーデンは身を乗り出し手を差し伸べ。
彼女を引き上げると同時に、今度は重さに耐えかねたアーデンの足元が崩れ落ち。
「アーデン様は・・・私を助ける為に。
私を助けたばかりに・・・橋から、谷底に・・・・・・、」
転落してしまった、と。
だから、彼女ははっきりと「亡くなった」と言ったのでは無かったけど。あの山を知るソルハイムの人間にすれば、あの場から転落して助かるとは思えない・・・そんな事は分かり切っていて。それに、
「エイラ様は、アーデン様の後を追って・・・いかれました。」
エイラが後を追ったという事実が「エイラ様が後を追われたのだから、間違い無いのだろう」と、アーデンの死を後押しした。もしも生きている見込みがあるのなら、彼女がそのような事をする訳が無いのだから。
こうして突き付けられた、二人の「死」という現実を前にして。
幼いソムヌスはあまりに無力で、どうしていいか分からなくて、ただ立ち尽くすしかなくて。
「不慮の事故でアーデン様が亡くなられた今。
新たな国の王は、その志を継ぐソムヌス様しかありえません。
王剣の一族の皆様も、宜しいですね?」
自分の名前に反応したものの、
「え・・・この様な時に、何を?
今は、それどころでは・・・・・・、」
正直、彼が何を言っているのか理解出来なかった。
彼はどの様な時でも冷静で、誰だかは「目的の為なら手段を選ばない」などと言っていたけれど。
「この様な時だからこそ、です。
偉大なる先導者を失った今、
路頭に迷う民に必要なのは、それに代わる先導者です。」
それは、そうかもしれない。東の大陸の者達にとっては、そうかもしれない。
けど・・・王剣の一族の者達にとっては、そうではない。
何故ならソルハイムの人間・・・王剣の一族の者達が忠誠と献身を捧げるのは、炎神イフリートの血統に在る「ソルハイムの王・アーデン」であって。
例えソムヌスが神の兄妹弟・・・剣神バハムートの御子であっても、アーデンの代わりにはなれなず。
故に、主に仕える事を使命として生きて来た彼らが、アーデンに代わりソムヌスが王だなど・・・思える筈が無い。
だからソムヌスは彼らを・・・そして自分自身を救う事は出来ない。
と、その時。重苦しい沈黙を破って、誰かが絞り出すような声で呟いた。
「・・・段取りが良過ぎる。
これでお前の狙い通りと言う訳か?」
あの言い方では、そう思われても仕方が無いだろう・・・と言うか。皆、内心そう思っていたのかもしれない。
「伝令役だなんだ言って、
自分の息の掛かった刺客をお二人に付け。
最初から、アーデン様を亡き者にしようと・・・。」
「そ、そうだ!
橋が崩れたのだって、
あいつらが細工したんじゃないのか?!」
「確かに・・・。
そうでもなければ炎神の祭壇・・・あのような聖域で、
アーデン様が命を奪われるなど・・・、」
ボロボロと、心の内が零れ出す・・・心に巣くう「黒い感情」が、まるで病の様に周囲の者を侵していく。
しかしその病を治す術を、力を、言葉を、ソムヌスは持たない。
やはり自分では、彼らを「救う」事は出来ない・・・兄上の代わりにはなれないと、思い知らされるばかりで。
「それは違います!
炎神の祭壇は、我らソルハイムの民にとって聖域。
故に、お二人に麓の旅所で待たれてはと、
申し出たのは我々の方です。」
ですから、お二人は聖域・・・炎神の祭壇どころか、祀る山一帯にも踏み入ってはいない。その様な細工など、出来る筈がありません!
割って入ったミルスの主張に、今度は不自然な程の沈黙が戻って来た。
それはそうだろう・・・彼らが彼女の立場でも、信仰が異なる二人には麓での滞在を願い出ただろうし。
あの山を聖域と信仰し、他所の人間が立ち入る事を良しとしないのなら「何故、お二人の傍を離れたのだ?!」と、今更責める事も出来ない。
誰かは「あのような聖域で、アーデン様が命を奪われるなど」と言ったけれど・・・「あのような聖域」だからこそ、二人の臣下達はアーデン達の「死」に関与する事は出来なかった筈だ。
だからアーデンは、本当に事故死だったのだと。
「そんな、まさか・・・。
アーデン様が、亡くなられたなど・・・。」
どれだけ信じられなくても、信じたくなくても・・・今はもう、彼女の言葉を信じるしかない。
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今まで彼らを・・・ソルハイムの民を導き続けてくれたアーデンは、もう戻って来ない。
そして「対の娘」として、アーデンと共にあったエイラも。
これから自分達は、どうすれば良いのだろうか?
勿論その様な重大事項、直ぐに決められる筈も無く。彼らは全体会合の後、王剣の一族にミルスを加えた13人で、今後どうするか話し合う事になった。
とは言っても・・・実際のところ、彼らの想いは一つだった。
ここまで導いてくれたアーデン亡き今、この地に留まる理由は無くなった。
だからこの地は彼らに託し、自分達はソルハイムに戻ろう・・・と。
その場では口にしなかったけど、王剣の一族の皆はそう思っていたに違いない。
そもそもアーデンの居ないこの地にソルハイムの民を移住させるなんて・・・そんなの何の為に?
きっと民らだってアーデンが居ないのなら、主の居ない土地に移る位なら。どんなに生活が苦しくても、ソルハイム本国で生きて行く事を選ぶだろう・・・本当に意味が見出せない。
でも、その「当たり前」を、彼の言葉が突き動かす・・・「当たり前」という言葉は、思考の放棄だと責める様に。
「私は皆様を追放し、
この島を我が物にしよう・・・などとは考えておりません。
今後もこの島の為、国の為、民の為、
力を貸して頂ければと思っております。」
自分が進む道なのだから・・・「当たり前」では無く、自ら考え、自らの意思で選び取れ、と。
「ですが、それを強制する権利など私は持ちません。
どうされるかは・・・、
アーデン様の言葉に従い「この島に残る」か。
アーデン様の言葉に背き「この島を去る」か。
選べる道は、二つに一つ。
どうか・・・ご自身で、ご決断下さい。」
例え選べる道が・・・目の前に伸びる道が、二つしかないとしても。
どちらを選んでも、苦難の道でしかないとしても。
確かにアーデンは旅立つ前に、こう言っていた。
「移住してくるソルハイムの民の為にも、
その力は島の・・・新たな国の為に使ってもらいたい」
「君たちの知恵と技術があれば、
どのような困難にも対処出来るだろう。
私達が戻るまで、その力で皆を守って欲しい。」と。
でも・・・だからって、そんな言い方ズルいと思う。
だってまさか、こんな事になるとは思ってなかったし。
兄上だって、そんなつもりで言っていた訳では無い・・・と思う、その言葉を引っ張って来て。
兄上の言葉に従い「この島に残る」か、背き「この島を去る」か・・・どちらかを選べなんて、そんな風に言われたら。
「王剣の一族の使命は、アーデン様に仕える事。
その主亡き今、我々がこの島に留まる理由など無い。」
「しかしアーデン様は、
この島を移住先にと望んでおられた。
それを捨て帰るのは・・・、」
「ソルハイムの民が、
この地へと移住を望むとは思えぬ。
移り住んだ所で、
主は・・・アーデン様は居られぬのだから。」
「それは、そうかもしれませんが。
アーデン様は、全てのソルハイムの民の為、と。
ならば、この島の発展を支えるのも、
我らが果たすべき使命では無いでしょうか?」
「此方の人間こそ、そんな事は望んでいないだろう。
炎神イフリートを悪神とした挙句、
アーデン様まで貶める様な連中だ。
俺らが居なくなった方が、精々するだろうよ。」
「だが、漁師達や臣下達など、
我々に協力してくれた者達が居るのも事実だ。
そのような者達まで一括りに切り捨てるのは、
我らの信仰に反するのではないか?」
「彼らが我々に協力してくれたのは、
アーデン様自身に惹かれてであって、
炎神イフリートを信仰している訳では無い。
そんな彼らに、我らの信仰を持ち出して何になる?」
「信仰は強いるものでは無い。
事実、アーデン様も炎神信仰を強要されなかった。
ただ、同じソルハイムの民なのだから・・・と。
同胞なら分かり合えると、信じておられたのだろう。」
「・・・では、何か?
奴らと分かり合う為に、我らに炎神信仰を捨てよと?
主を失い、信仰を捨て、祖国にも戻れず・・・そうまでして何の為に!?」
「アーデン様のお言葉に添う為、だ。
主の心の内など、我々に理解できる筈も無い。
ならば、最後の言葉に従うしかないだろう。」
「だから状況が、前提が違うと言っている!
そんな勝手な言い分・・・俺は納得出来ない。
そこまで言うなら、残りたい奴だけ残ればイイだろう!?」
「止めてください!
王剣の一族が内部分裂など、あってはならない事です。
それにこのような言い争い・・・兄上がどう思われるか。」
ソムヌスの悲痛な声に、渋々と言った態で場が収まる。
収まりはしたものの・・・兄上なら、もっと上手に収められるだろう、と。力が足りない・・・言葉に力を宿すだけの力が。それが歯痒く、もどかしい。
時のアーデンより王剣の一族の称号を受けて数百年。剣の名を冠する12の一族は、それぞれが培い貯えて来た知識・技術を持ち寄り。常に王の神のそして国の為にとアーデンに忠誠を捧げ、一族に課せられた任を果たして来た。
それはつまり、アーデンを要に12の一族の結束は固く結ばれ・・・数百年もの間、意見の相違から仲違いする事も、いずれかが欠ける事も無かったと言う事で。
だからこそ、この様な事態は初めてだった。こんな要を失った扇の様な・・・皆が皆、どうすれば良いのかバラバラで。
「・・・アーデン様亡き今、
我らは自分達で進む道を選ばねばならない。
しかしソムヌスの言う通り、
王剣の一族が内部分裂など、あってはならない事だ。
それこそアーデン様に、申し訳が立たない。」
だから「この島に残る」か「この島を去る」か・・・多数決で決めよう、と。
「この面子で多数決とは・・・初めてだな。」
「今までは、アーデン様の言葉が全てだったからな。
多数決なんて必要なかった。」
「だが・・・アーデン様亡き今。
多数決が一番、皆が納得出来る決定手段だろう。」
「つまり、どちらに決まっても・・・・・・、」
王剣の一族としての使命を果す為「この島に残る」か「この島を去る」か・・・全員がその決定に従う事。
その結果は・・・・・・、
王剣の一族12名の内「この島に残る」が6票、「この島を去る」が6票。
「同数とは・・・。
多数決が一番適していると思ったが、
なかなかに難しいモノだな。」
全ての「決定」をアーデンに任せていた事が、如何に楽な事だったのかを思い知る。
「では、どうする?
多数決では、何度やっても結果は変わらないだろ。
勝ち抜けジャンケンで決めるか?」
本気で言っている訳では無い事は、その仕草・表情からも窺い知れるが。
「全くお前は・・・。
こんな時に、ふざけた事を言うな。」
「そうだな、
ジャンケンで決める位なら・・・・・・、」
「ミルス様。
貴方なら、アーデン様はどちらを望まれると思いますか?」
剣神の一族の代表としては、ソムヌスが同行していたが。
ミルスも剣神の一族の者であり、何より次代の炎神イフリートの母となるかもしれなかった娘・・・王剣の一族での票が半数に割れた今、彼女ほど最後の決断を委ねるに相応しい人間は居ないだろう。
とは言え・・・ミルス自身は、この場では部外者と自らの立場を弁え、部屋の隅で彼らの遣り取りを見守っていただけで。まさかその様な重大な選択を任されるなんて想定外で。
ソルハイムの中枢を担う王剣の一族の代表者達の視線を一身に浴び、咄嗟に機転の利いた言葉が出て来るわけも無く。どう答えたものか・・・それなり時間が経ったようにも思うし、意外にもすんなりと言葉に出来たようにも思う。
アーデン様なら・・・眼裏に焼き付くその姿を、生き様を手繰り寄せる。
ソルハイムの仕来りとして、神成・・・次代の炎神イフリートを成す定めにあった自分。
でも?だから?
それは仕来りであって、私個人への思慕の情愛は当たり前に無かったように思う。多分私に向けられていたのは、全てのソルハイムの民を愛する博愛のそれであって・・・私が、私だけが特別だった訳では無い。
それに特別・・・と言う意味では、アーデン様にとって「対の娘」という唯一の存在であるエイラ様が、私は羨ましかった。
勿論、その事についてエイラ様に告白する事は無かったけれど。
きっとエイラ様は、その特別故に苦しまれていたのだろうけど。
私達は「アーデン(様)なのだから・・・」と、そう思う事が出来た。
それ程にあの人は「ソルハイムの王」だった・・・誰よりも何よりも、ソルハイムに全てを捧げ愛した人。その様な人だったから・・・・・・、
「確かにソルハイムは過酷な環境にありますが、
千年以上の歴史を紡いで来た国です。
それに対しこの国は・・・未だ王も名も定まっていない、
生まれたばかりの赤子の様なもの。」
全てのソルハイムの民が、心穏やかであれるようにと願った・・・その為に、全てを捧げたあの人なら、
「だとすれば・・・アーデン様は、
皆様には生まれたばかりのこの国を、
育て守ってやって欲しいと。
そう、願われるのではないでしょうか?」
アーデンは火山の冬による寒冷化を機に、未来永劫ソルハイムの民が安定した生活が出来る土地を求め旅立ったが。長い歴史を持つ成熟したソルハイム本国にすれば、未だ辛く厳しい寒さではあるけれど、今まで培ってきた知識や技術を駆使し、若干の不自由や犠牲に目を瞑りさえすれば生きていけない程の環境では無い。
それに本国には彼らの一族の者達も残っている・・・豊かな土地では無くても、きっと逞しく生きて行けるだろう。
ミルスの言葉に、異を唱える者は居なかった。
その通りだと・・・きっとアーデン様なら、と思えたから。
いや、本当は分かっていた。
自分が死んだからと言って「じゃあ、ソルハイムに戻っていいよ」なんて・・・言う筈が無い、と。
分かっていたけど、分かっていたけど・・・主の為に、主以外の者に仕えるのも。遠く離れたこの国の為に、故郷を捨てる事になるのも。
それが主が望みだと分かっていても。
王を国を愛して止まないからこそ、そう簡単に割り切る事なんて出来なかった。
でも、決断しなければならないのだろう。
主より託された志を引き継ぎ・・・その尊い生き様に報いる為に、
「では我ら王剣の一族は、アーデン様の遺志を継ぎ。
今後、この島の・・・国の発展に尽くす事とする。」
立ち止まる事は許されない・・・常に前を見据え歩み続けたあの人の背を追うように。
「だが・・・我らの祖国はソルハイム王国であり、
我らが忠誠を捧げる王は、アーデン様である。
例えこの地に骨を埋める事になろうとも、
我らの心が故郷を・・・王を違え忘れる事は無い。」
何時かの時代、何時かの世界・・・この国に戻った主に、誇れる国であるように。
「全ては 我らが 王の為に・・・!」
「「「全ては 我らが 王の為に・・・!」」」
全ては 我らが 王の為に・・・生まれたばかりのこの国を、育て守っていこう。
そう、この国の為では無い・・・誓う言葉の全ては主の為、故郷の為。
それを貴方は嘆くだろうか?
でも・・・それ位は、許して欲しいと思う。誰にも明かす事の無い、自分の心の内くらい。
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「疲れているところを、すまないな。」
「・・・いえ、お気遣い有難うございます。」
話し合いの後。割り当てられた部屋の前でソムヌスを呼び止めたのは、組織としては平等である王剣の一族の者達が「自分達の長」と認める最年長の男で。無理やり付いて来たに等しいソムヌスに対し厳しく当たる者達も居る中、相応に厳しくも励まし檄してくれた・・・ソムヌス自身最も信を置いている人物だった。
だから・・・と言う訳ではないけれど。
これを「甘え」だとは、思われたくないけれど。
「これから僕は・・・どうすれば良いのでしょうか?」
十と少し・・・年相応の本音が、スルリと零れ落ちる。
件の彼は「不慮の事故でアーデン様が亡くなられた今。新たな国の王は、その志を継ぐソムヌス様しかありえません。」と・・・そう言っていた。そうでなくとも、ずっと以前から「自分を王に・・・」という動きがある事も知っていた。
でもソルハイムの王は「王はアーデンであり、アーデンは王である」と決まっている。そんな事を言われたって「はい、そうですか」と、すんなり受け入れられる筈が無い。
しかし目の前の男も・・・それに対する答えを持たない。ソムヌスはアーデンとエイラとは「神の兄妹弟」として、当に兄姉弟として育てられてきたのだから。同じ王剣の一族とは言え、その喪失感は自分達と同じ・・・と、一括りにしてしまうのは酷だろう。
でも・・・だからこそ、言っておかなければならない。
「お二人が亡くなり皆、胸が引き裂かれる思いだが。
一番辛く悲しい思いをしているのは、やはりお前だろう。」
「しかしアーデン様が、この地に新たな国を・・・、
新生ソルハイム王国をと願っておられたのなら。
その志を継げるのは、一番主の側に在ったお前だと。
そう・・・思われるのではないだろうか?」
でも・・・だからこそ、言っておかなければならない。
「だが、その反面。
お前がソルハイムの王を名乗る事が、
耐えられない者達が居るのも事実だ。
彼らにとってのソルハイムの王はアーデン様であり、
それだけが・・・彼らの心の支えだからだ。」
「だから新たな国の名は、
ソルハイムではない・・・別の名にしてやって欲しい。
ソルハイムの王に生涯の忠誠を誓い、
主が逝って尚、献身を捧げる彼らの為に・・・どうか頼む。」
それは・・・そうだろう。
アーデンが王位に就くからこそ『新生ソルハイム王国』としていたのであって。王位に就くのがアーデンでないのなら「ソルハイム」を名乗る事は出来ないし。
それこそ、アーデンの逝去により本国からの移住計画の見込みが薄くなった今。本国を残したまま、こちらが『新生ソルハイム王国』を名乗る事など出来ない。
それに何より・・・国にとって最も大切な民らが、それを望まないだろう。東の大陸の者達にとってソルハイムは、自分達を裏切った炎神イフリートを主神と崇める国なのだから。
ソルハイムを国の礎としながらも、それを誇る事も、語り継ぐ事も、記録に刻む事も。
その名を掲げる事も、炎神を主神に祀る事も。
初代国王となる筈だった男の名を残す事も・・・きっと叶わない、許されない。
だから、だからこそ・・・。
「分かりました。
まだ、どうなるか分かりませんが。
皆さんの想いに報いる事が出来る名を、
僕なりに、考えてみます・・・。」
何時かの時代、何時かの世界に兄上が戻られる日まで。
その日を夢見て、この新しい国を育て守り抜こう。
例えどの様な犠牲を払う事になっても・・・それが兄上からこの国を預かった僕の使命だと、そう心に刻んで。
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