落書き帳の10ページ目
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FF15:レガリア(TYPE-F)で1000年の時を超える話《新約 47》
- 2025/08/31 (Sun) |
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《今回の御品書き (FF15・二次創作モドキです) 》
【『ルシスの禁忌』とは (籠の中~密会)】
《今回の御品書き (FF15・二次創作モドキです) 》
【『ルシスの禁忌』とは (籠の中~密会)】
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【『ルシスの禁忌』とは (籠の中~密会)】
良くない考えだ・・・と。
アーデンの為に用意された執務室から、自室へ戻る途中。人気のない夜の回廊で、その「良くない考え」を頭の中から追い出すように、エイラはか細く溜め息を吐いた。
従者達や臣下達が説明・説得を続けるも、ソムヌスを王に推す声は収まらず。
結果、アーデンは身内側の従者達によって、やんわりとした軟禁状態を強いられていた。
とは言っても、四六時中と言う訳では無い・・・出来る事なら、四六時中部屋で大人しくしていてほしいのは山々だったけれど。
主の外出を禁じた結果「アーデンが雲隠れした」なんて噂にでもなれば、それこそソムヌス派を増長させる事になってしまうし。
主の身の危険を案じ、それを切々と訴え、民らとの接触を禁じたところで・・・民に尽力する事こそ自らの使命とするアーデンが、自身の身の安全を優先して、大人しく部屋に籠っていてくれるとは思えなかったので。
従者達は、どうすれば主の安全を確保出来るか相談し合った結果「外を回る時には、必ず従者を複数人同行させ、決して一人にならない事」を、外出時の条件として嘆願。
その条件を素直に受け取ったアーデンは、何の疑いも無く「分かったよ」と、了承した。
・・・のだけれど。
従者達はアーデンを危険な目に合わせたくない・・・出来る限り、外を出歩いて欲しくなかったので、
「一緒に来て欲しいって声を掛けても、
皆、先約があって今は無理です・・・って言うんだ。」
「貴方の分まで、彼らも民の為に働いているのだから。
そう拗ねないで、アーデン。」
「そうは言っても、
こんなに出掛けられないとは思ってなかったんだ。
そもそも外に出るだけに、条件厳し過ぎじゃないかな?」
「何かがあってからでは遅い・・・皆、貴方の事が心配なのよ。
なのに貴方は、彼らの想いを疎ましく思うの?」
「そ、そんな事は無いよ。
皆の気持ちは嬉しく思う・・・思うけど・・・・・・、」
「うん・・・分かってる。
意地悪言って、御免なさい。」
そういって口籠るアーデンの言葉に、皆まで言わずとも分かると言葉を重ね、デスクの上の彼の手に手を重ねる・・・それが自分に許される精一杯。
「明日には時間を取ってくれるよう、
皆に伝えておくから・・・今日は我慢して。
民の為の仕事なら、ここにもたくさん有るでしょ?」
重ねた手にペンを握らせ、チラリとデスクに積まれた書類に視線を寄こしてから・・・念を押すように「ね?」と、顔を覗き込み微笑む。
そんなエイラの励ましに、書類仕事は苦手なんだとボヤキながらも「そうだね」と苦微笑を返す彼は「本当に人が好い」と、言わざるを得なかった。
結局の所。どれだけ身を案じての事であっても「外に出てはいけません」と、主たるアーデンに命令する事など出来ないのだから・・・こうして彼の人の好さに付け込んで、外出頻度・時間を制限し。
実際に外出する時には身辺警護の従者を複数人付け、それとは別に気付かれないよう護衛を付け、更には妙な動きをする人間が居ないか警備の者を要所に配置し、それでもの万が一に備えて医療班を待機させておく。
その念の入れ様は、供回り2~3人の従者だけでも「条件厳し過ぎじゃないかな?」と言うアーデンが知ったら、それこそ「外出するだけに大袈裟だよ!」と、驚きそうな厳重警戒態勢だけど・・・いくら危険を説いたところで「そんな危険な事をする人はいないよ」と、アーデン本人に全く警戒心や危機感が無いのだから。周囲の人間がこれ位、目を光らせ警戒しない事には、危なっかしくて仕方が無い。
そう、これは唯一無二の王を守る為には仕方がない事。
だからエイラは、アーデンの人の好さを利用したやり方を「良くない考えだ」と憂いている訳ではない。
エイラが「良くない考えだ」と憂いているのは、
こうしてアーデンと二人きりでいられる時間を、幸せだと・・・思ってしまう事。
ソルハイムの民にとって、王・アーデンは絶対的存在だったけれど。
その「王の対の娘」「氷神シヴァの娘(炎神イフリートの双子妹)」であるエイラは、公私に係わらず「王の対」つまり対等である事が許されていた。
それは実際に兄妹として育てられてきた環境もあって、ごく自然に王を諫め咎め意見する事も出来た・・・これは「アーデンは王である」としながらも「兄妹としての対等な関係」もあるエイラにしか果たせない役割で。
だからこそ従者達は、アーデンを部屋に隔離するにあたり、彼が部屋を出ようとしてもそれを止められる人間・・・お目付け役を任せたいとエイラに頼み、彼女もそれを了承した。
だからこうして毎日、アーデンと二人きりの時間を過ごしている。
でもそれは、そのような事情があっての事で・・・遠慮無くアーデンに意見出来る立場にあるからこそ任された「役割」であって。
アーデンは常に多くの民に囲まれ、全ての民に平等な献身愛を捧げて来た。
そのアーデンと二人で居られる、彼の視線を言葉を独り占め出来るこの状況を。
ずっとこのまま二人で居られればと、そう願ってしまいそうになる本心を「良くない考えだ」と捻じ伏せる。
だって彼は「王」であり「兄」である故に、どれだけ近しい関係にあっても「恋人・伴侶」にと望む事など許されないのだから。
このような状況を「幸せ」だなんて・・・そんな風に思ってしまう事は、裏切りであり「罪」なのだと。
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自身の憂いを振り払うように、気分を変えようと夜の回廊から見上げた夜空には、海を渡った時と同じ下弦の月・・・月明りとしては心許ない、淡い光が暗闇を微かに照らしていた。
その暗闇の中。視界の端で何かが動く気配を感じ、エイラは視線を其方・・・建物から少し離れた森の中へ向ける。
アーデンの事は、各々の仕事を終え戻って来た従者達に託し、エイラは入れ替わりで執務室を出て来た・・・女性が寝泊まりする建屋は回廊を挟んで別に用意されていたので、そちらに戻る為に。
なので仮にアーデンに危害を与えようと目論む輩であっても、今の彼には従者達が就いているので大丈夫だろう・・・と、思う。そもそも襲撃目的なら、こんな従者達が戻った時間を選ばないだろうから。
ただこの辺りはアーデンに近い者達・・・従者達や臣下達に割り振られた区画なので。何者かが入り込んでいるのなら、それはそれで捨て置く事は出来ない。一体何者なのか、何を企んでの事なのか・・・確認出来るなら確認しておきたい。
一瞬、誰かを呼びに行く事も考えたけれど。ここまで旅して来た事実からも分かるように、エイラは見た目に反して行動派だったので。見失う前にと薄暗い闇と森の木々に紛れ、気配がした方へと足を進めた。
この夢島は、緑豊かな島だったけれど。木々の貴重さを理解している故に、国の方針として過剰な伐採は禁じていた。なのでこの様な上流層区画であっても、ほぼ手付かずの森が残されていたりする・・・こうなっては安全面の意味で、多少伐採した方が良いのかもしれないけど。
そんな森の中。出来るだけ音を立てないよう木々の背に隠れて辺りの様子を探ると、奥の方から微かに男の声が聞こえた。
が、この暗闇の中ではエイラの白い装束は目立ってしまう・・・迂闊に近寄る事も出来ず、何とか内容が聞き取れる位置まで慎重に足を進めるので精一杯だった。
声から察するに。そこに居たのは、例のソムヌス派を扇動している男と。
東の大陸に渡って始めの頃からアーデン一行に協力し続け、島に渡ってからは臣下の一人に取り立てられていた・・・アーデンや従者達も信用している男。
信じたくはなかったけれど、まさか内通者だったのか・・・と、そんな考えも過ったけど。
何にせよ、このような人目を忍んだ場所で、何を話しているのか。それを知る必要があったので、微かに聞こえる二人の会話に集中する。
「まさか、アーデン様を亡き者にすると?!」
「表向きには、です。
実際に命を奪う・・・そこまでは考えておりません。」
「表向きに、とは?」
「ソムヌス様が王になったとしても、
アーデン様が側に在っては、その威光に翳りが差します。
また従者達との支持分裂も避けられないでしょう。
なので彼には表舞台から姿を消して頂きたい。」
「然るべき場所に身を隠して頂き。
表向きには、アーデン様は亡くなったと発表する。」
「尤も・・・力の善悪は別として、
多くの民が彼の奇跡の力を信じているのも事実。
粗雑に命を奪ったところで、呪いや祟りだと騒がれては困りますので。
彼の「死」には、一芝居噛ませる必要がありますが・・・。」
「その様な事・・・アーデン様が許されるとは思えない。」
「そうでしょうか?
私は、それが民にとって最善の事であるならば。
アーデン様は、自分の命など惜しまぬ方だと信じております。」
「・・・お前の目的は、何だ?」
「私は同胞同士での争いを未然に防ぎたい・・・それだけです。」
折角こうして、ソルハイムの民が一所に集う事が出来たのだから・・・もう同胞同士で争いたくはない。皆で力を合わせ、再び一つの国として歩んでいきたいのだ、と。
そう付け足す男の言葉に、エイラは心の底が冷える様な・・・底知れぬ恐ろしさを感じた。
分かったような事を言っているだけかもしれない・・・けど。もしその言葉が本心であるなら、それはアーデンの思考・思想に限りなく近く。
やり方が異なるだけで、アーデンが目指す世界と彼が目指す世界は、同じなのではないかと・・・そう思えてしまった事が何よりも恐ろしく、そう感じる事すら認めたくなかった。
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今日のところは、アーデンに近い者を賛同者として取り込みたい・・・という思惑だったのか?
特に「何をしてほしい」といった具体的な話は無く、彼らの密会は終わった様だった。臣下の男が去った今、その場は例の男だけが何かを待つように佇んでいる。
その真意を問い詰めるべきだろうか・・・息を潜めエイラが考えていると、
「もう少し段取りが整ってからのつもりでしたが・・・。
貴女には、何れ直接お話しなければと思っておりました。」
自身に呼び掛けているのだと察し、意を決して男の前に歩み出る。
「先程の話、聞いておられたのでしょう?」
「貴方がどの様な主張を掲げようが、
古来よりソルハイムの王は、アーデンと決まっている。
ソムヌスを王になど、認められないわ。」
意図して強い口調で跳ね除ける。そうでもしないと、目の前の男の思惑に嵌ってしまいそうだったから。
そんなエイラの言葉に、男は感情を揺さぶられる事も無く。まるで見てきた事実を淡々と述べるように、
「古来よりソルハイムの王は、アーデンと決まっている。
それは先日述べた様に、今までの歴史あっての事です。
そして今、それが通用しない事は、
貴方方も薄々気が付いている筈・・・そうでしょう?」
それは・・・従者達も薄々気が付いている。でも主を思うが故に、誰も言い出せずにいる事だった。
そもそもアーデンは「人が好過ぎる」・・・これは民に対し絶対的な信用・信頼があっての事で。
民らもアーデンに対し絶対的な信用・信頼がある・・・からこそ成り立っている関係に過ぎない。
つまりアーデンという「王」は、民に愛されてこそ「王」で居られるのであって。彼は、自分に対して悪意を持つ人間に対応出来ない。
そのようなアーデンには・・・炎神イフリートを悪神と信じ、その血統より続くソルハイムの王すら「自分達の不幸の根源」と逆恨みするこの島の住人達を、取り纏める事は不可能だろう。
だって今まで、そんな人間に接する事無く「王」として生きて来たのだから。
それでも・・・、
「では逆にお聞きしますが・・・。
アーデン様が新たな王となった所で、
幸せになれるのは誰でしょうか?」
ソルハイムの王はアーデンしか有り得ない・・・そんな貴方方の自己満足では無いですか?
「新しい国の建国にあたり、
どうすればより多くの民が幸せになれるのか。
もし貴方方が、真にアーデン様を信じるのなら。
既存の事柄に捕らわれず、
あの方の意思も尊重すべきだと、私は思います。」
そう、アーデンは言っていた・・・「確かに私は、民が幸せになれるなら、必ずしも私が王である必要は無いと思っているんだ」と。
それでも、それでも・・・、
あの気高い魂を、民の為なら自身の全てを差し出せる献身を。
彼らが認めないから、貴方は王には相応しくないのだと・・・そんな勝手を突き付ける事など出来ない。
だって周囲が勝手に変わっただけで、彼は彼で在り続けた・・・彼は何も変わっていないのに!
そう・・・言えれば良かった、見っとも無く泣き喚いても激情しても。
でも、言えなかった。だって・・・、
そのような人間たちの「王」となった所で、
果たしてアーデンは幸せなんだろうか・・・?
誰よりもアーデンの側に在って支えるべき自分が、そう思ってしまったから。
王も柵も全てを捨てて、人としての幸せや自由を・・・彼だって求めても良いのでは、と。
そしてその隣に、自分が居る事が出来れば・・・・・・、
黙り込んでしまったエイラに、男はそっと白いハンカチを差し出した。
泣いてはいない筈だった。人前で涙を流すなど、そんな醜態は晒さない。
でも確かに、彼が立ち去った後、泣き崩れてしまいそうだった。それ位のギリギリのところで自身を保っていた・・・正直、何故こんな余所者の男にここまで心を揺さぶられるのか、悔しくて仕方が無い。
それを否定したくて、何か言い返してやりたかったけれど、何を言っていいかも分からず。
それこそ口を開けば感情が溢れ出しそうで、涙が零れそうで。
手を取り半ば強引にハンカチを握らされても、押し返す事も言い返す事も出来ず。
「貴方方が私に不信感を抱くのは仕方ありません。
ですが私は祖父より、
ソルハイム王国の話を、お伽話替わりに聞かされ育ってきました。
その中で、再びソルハイムの民が一つの国に纏まる事が出来たなら、
自分には何が出来るだろうと・・・そう考え生きて来たのです。」
だってソルハイムの王は、可哀想だと思ったから。
王様だからと、何でも一人で頑張る王様の力になってあげたいと。
民の為に頑張るソルハイムの王様を支えてあげたいと、子供心に思ったから。
「ですから私のソムヌス様をお支えしたいという思いは、
嘘偽り無い本心です。
その事は、信じて頂きたい。」
「それから・・・不信感を抱かれては困りますので。
今日の事は、まだソムヌス様には内密に。」
明るい所までお送りしたい所ですが、私と一緒では具合が悪いでしょうから。
どうかお気を付けて、お戻り下さい。
遠ざかって行く男の背を、ただ黙って見送る事しか出来なかった。
手の中には、クシャクシャに握りつぶしてしまった白いハンカチが一枚。
悔しくて悔しくて・・・とてもそのハンカチを使う気にはなれなかった。
【『ルシスの禁忌』とは (籠の中~密会)】
良くない考えだ・・・と。
アーデンの為に用意された執務室から、自室へ戻る途中。人気のない夜の回廊で、その「良くない考え」を頭の中から追い出すように、エイラはか細く溜め息を吐いた。
従者達や臣下達が説明・説得を続けるも、ソムヌスを王に推す声は収まらず。
結果、アーデンは身内側の従者達によって、やんわりとした軟禁状態を強いられていた。
とは言っても、四六時中と言う訳では無い・・・出来る事なら、四六時中部屋で大人しくしていてほしいのは山々だったけれど。
主の外出を禁じた結果「アーデンが雲隠れした」なんて噂にでもなれば、それこそソムヌス派を増長させる事になってしまうし。
主の身の危険を案じ、それを切々と訴え、民らとの接触を禁じたところで・・・民に尽力する事こそ自らの使命とするアーデンが、自身の身の安全を優先して、大人しく部屋に籠っていてくれるとは思えなかったので。
従者達は、どうすれば主の安全を確保出来るか相談し合った結果「外を回る時には、必ず従者を複数人同行させ、決して一人にならない事」を、外出時の条件として嘆願。
その条件を素直に受け取ったアーデンは、何の疑いも無く「分かったよ」と、了承した。
・・・のだけれど。
従者達はアーデンを危険な目に合わせたくない・・・出来る限り、外を出歩いて欲しくなかったので、
「一緒に来て欲しいって声を掛けても、
皆、先約があって今は無理です・・・って言うんだ。」
「貴方の分まで、彼らも民の為に働いているのだから。
そう拗ねないで、アーデン。」
「そうは言っても、
こんなに出掛けられないとは思ってなかったんだ。
そもそも外に出るだけに、条件厳し過ぎじゃないかな?」
「何かがあってからでは遅い・・・皆、貴方の事が心配なのよ。
なのに貴方は、彼らの想いを疎ましく思うの?」
「そ、そんな事は無いよ。
皆の気持ちは嬉しく思う・・・思うけど・・・・・・、」
「うん・・・分かってる。
意地悪言って、御免なさい。」
そういって口籠るアーデンの言葉に、皆まで言わずとも分かると言葉を重ね、デスクの上の彼の手に手を重ねる・・・それが自分に許される精一杯。
「明日には時間を取ってくれるよう、
皆に伝えておくから・・・今日は我慢して。
民の為の仕事なら、ここにもたくさん有るでしょ?」
重ねた手にペンを握らせ、チラリとデスクに積まれた書類に視線を寄こしてから・・・念を押すように「ね?」と、顔を覗き込み微笑む。
そんなエイラの励ましに、書類仕事は苦手なんだとボヤキながらも「そうだね」と苦微笑を返す彼は「本当に人が好い」と、言わざるを得なかった。
結局の所。どれだけ身を案じての事であっても「外に出てはいけません」と、主たるアーデンに命令する事など出来ないのだから・・・こうして彼の人の好さに付け込んで、外出頻度・時間を制限し。
実際に外出する時には身辺警護の従者を複数人付け、それとは別に気付かれないよう護衛を付け、更には妙な動きをする人間が居ないか警備の者を要所に配置し、それでもの万が一に備えて医療班を待機させておく。
その念の入れ様は、供回り2~3人の従者だけでも「条件厳し過ぎじゃないかな?」と言うアーデンが知ったら、それこそ「外出するだけに大袈裟だよ!」と、驚きそうな厳重警戒態勢だけど・・・いくら危険を説いたところで「そんな危険な事をする人はいないよ」と、アーデン本人に全く警戒心や危機感が無いのだから。周囲の人間がこれ位、目を光らせ警戒しない事には、危なっかしくて仕方が無い。
そう、これは唯一無二の王を守る為には仕方がない事。
だからエイラは、アーデンの人の好さを利用したやり方を「良くない考えだ」と憂いている訳ではない。
エイラが「良くない考えだ」と憂いているのは、
こうしてアーデンと二人きりでいられる時間を、幸せだと・・・思ってしまう事。
ソルハイムの民にとって、王・アーデンは絶対的存在だったけれど。
その「王の対の娘」「氷神シヴァの娘(炎神イフリートの双子妹)」であるエイラは、公私に係わらず「王の対」つまり対等である事が許されていた。
それは実際に兄妹として育てられてきた環境もあって、ごく自然に王を諫め咎め意見する事も出来た・・・これは「アーデンは王である」としながらも「兄妹としての対等な関係」もあるエイラにしか果たせない役割で。
だからこそ従者達は、アーデンを部屋に隔離するにあたり、彼が部屋を出ようとしてもそれを止められる人間・・・お目付け役を任せたいとエイラに頼み、彼女もそれを了承した。
だからこうして毎日、アーデンと二人きりの時間を過ごしている。
でもそれは、そのような事情があっての事で・・・遠慮無くアーデンに意見出来る立場にあるからこそ任された「役割」であって。
アーデンは常に多くの民に囲まれ、全ての民に平等な献身愛を捧げて来た。
そのアーデンと二人で居られる、彼の視線を言葉を独り占め出来るこの状況を。
ずっとこのまま二人で居られればと、そう願ってしまいそうになる本心を「良くない考えだ」と捻じ伏せる。
だって彼は「王」であり「兄」である故に、どれだけ近しい関係にあっても「恋人・伴侶」にと望む事など許されないのだから。
このような状況を「幸せ」だなんて・・・そんな風に思ってしまう事は、裏切りであり「罪」なのだと。
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自身の憂いを振り払うように、気分を変えようと夜の回廊から見上げた夜空には、海を渡った時と同じ下弦の月・・・月明りとしては心許ない、淡い光が暗闇を微かに照らしていた。
その暗闇の中。視界の端で何かが動く気配を感じ、エイラは視線を其方・・・建物から少し離れた森の中へ向ける。
アーデンの事は、各々の仕事を終え戻って来た従者達に託し、エイラは入れ替わりで執務室を出て来た・・・女性が寝泊まりする建屋は回廊を挟んで別に用意されていたので、そちらに戻る為に。
なので仮にアーデンに危害を与えようと目論む輩であっても、今の彼には従者達が就いているので大丈夫だろう・・・と、思う。そもそも襲撃目的なら、こんな従者達が戻った時間を選ばないだろうから。
ただこの辺りはアーデンに近い者達・・・従者達や臣下達に割り振られた区画なので。何者かが入り込んでいるのなら、それはそれで捨て置く事は出来ない。一体何者なのか、何を企んでの事なのか・・・確認出来るなら確認しておきたい。
一瞬、誰かを呼びに行く事も考えたけれど。ここまで旅して来た事実からも分かるように、エイラは見た目に反して行動派だったので。見失う前にと薄暗い闇と森の木々に紛れ、気配がした方へと足を進めた。
この夢島は、緑豊かな島だったけれど。木々の貴重さを理解している故に、国の方針として過剰な伐採は禁じていた。なのでこの様な上流層区画であっても、ほぼ手付かずの森が残されていたりする・・・こうなっては安全面の意味で、多少伐採した方が良いのかもしれないけど。
そんな森の中。出来るだけ音を立てないよう木々の背に隠れて辺りの様子を探ると、奥の方から微かに男の声が聞こえた。
が、この暗闇の中ではエイラの白い装束は目立ってしまう・・・迂闊に近寄る事も出来ず、何とか内容が聞き取れる位置まで慎重に足を進めるので精一杯だった。
声から察するに。そこに居たのは、例のソムヌス派を扇動している男と。
東の大陸に渡って始めの頃からアーデン一行に協力し続け、島に渡ってからは臣下の一人に取り立てられていた・・・アーデンや従者達も信用している男。
信じたくはなかったけれど、まさか内通者だったのか・・・と、そんな考えも過ったけど。
何にせよ、このような人目を忍んだ場所で、何を話しているのか。それを知る必要があったので、微かに聞こえる二人の会話に集中する。
「まさか、アーデン様を亡き者にすると?!」
「表向きには、です。
実際に命を奪う・・・そこまでは考えておりません。」
「表向きに、とは?」
「ソムヌス様が王になったとしても、
アーデン様が側に在っては、その威光に翳りが差します。
また従者達との支持分裂も避けられないでしょう。
なので彼には表舞台から姿を消して頂きたい。」
「然るべき場所に身を隠して頂き。
表向きには、アーデン様は亡くなったと発表する。」
「尤も・・・力の善悪は別として、
多くの民が彼の奇跡の力を信じているのも事実。
粗雑に命を奪ったところで、呪いや祟りだと騒がれては困りますので。
彼の「死」には、一芝居噛ませる必要がありますが・・・。」
「その様な事・・・アーデン様が許されるとは思えない。」
「そうでしょうか?
私は、それが民にとって最善の事であるならば。
アーデン様は、自分の命など惜しまぬ方だと信じております。」
「・・・お前の目的は、何だ?」
「私は同胞同士での争いを未然に防ぎたい・・・それだけです。」
折角こうして、ソルハイムの民が一所に集う事が出来たのだから・・・もう同胞同士で争いたくはない。皆で力を合わせ、再び一つの国として歩んでいきたいのだ、と。
そう付け足す男の言葉に、エイラは心の底が冷える様な・・・底知れぬ恐ろしさを感じた。
分かったような事を言っているだけかもしれない・・・けど。もしその言葉が本心であるなら、それはアーデンの思考・思想に限りなく近く。
やり方が異なるだけで、アーデンが目指す世界と彼が目指す世界は、同じなのではないかと・・・そう思えてしまった事が何よりも恐ろしく、そう感じる事すら認めたくなかった。
■□■□■□■□■□■□■□■□
今日のところは、アーデンに近い者を賛同者として取り込みたい・・・という思惑だったのか?
特に「何をしてほしい」といった具体的な話は無く、彼らの密会は終わった様だった。臣下の男が去った今、その場は例の男だけが何かを待つように佇んでいる。
その真意を問い詰めるべきだろうか・・・息を潜めエイラが考えていると、
「もう少し段取りが整ってからのつもりでしたが・・・。
貴女には、何れ直接お話しなければと思っておりました。」
自身に呼び掛けているのだと察し、意を決して男の前に歩み出る。
「先程の話、聞いておられたのでしょう?」
「貴方がどの様な主張を掲げようが、
古来よりソルハイムの王は、アーデンと決まっている。
ソムヌスを王になど、認められないわ。」
意図して強い口調で跳ね除ける。そうでもしないと、目の前の男の思惑に嵌ってしまいそうだったから。
そんなエイラの言葉に、男は感情を揺さぶられる事も無く。まるで見てきた事実を淡々と述べるように、
「古来よりソルハイムの王は、アーデンと決まっている。
それは先日述べた様に、今までの歴史あっての事です。
そして今、それが通用しない事は、
貴方方も薄々気が付いている筈・・・そうでしょう?」
それは・・・従者達も薄々気が付いている。でも主を思うが故に、誰も言い出せずにいる事だった。
そもそもアーデンは「人が好過ぎる」・・・これは民に対し絶対的な信用・信頼があっての事で。
民らもアーデンに対し絶対的な信用・信頼がある・・・からこそ成り立っている関係に過ぎない。
つまりアーデンという「王」は、民に愛されてこそ「王」で居られるのであって。彼は、自分に対して悪意を持つ人間に対応出来ない。
そのようなアーデンには・・・炎神イフリートを悪神と信じ、その血統より続くソルハイムの王すら「自分達の不幸の根源」と逆恨みするこの島の住人達を、取り纏める事は不可能だろう。
だって今まで、そんな人間に接する事無く「王」として生きて来たのだから。
それでも・・・、
「では逆にお聞きしますが・・・。
アーデン様が新たな王となった所で、
幸せになれるのは誰でしょうか?」
ソルハイムの王はアーデンしか有り得ない・・・そんな貴方方の自己満足では無いですか?
「新しい国の建国にあたり、
どうすればより多くの民が幸せになれるのか。
もし貴方方が、真にアーデン様を信じるのなら。
既存の事柄に捕らわれず、
あの方の意思も尊重すべきだと、私は思います。」
そう、アーデンは言っていた・・・「確かに私は、民が幸せになれるなら、必ずしも私が王である必要は無いと思っているんだ」と。
それでも、それでも・・・、
あの気高い魂を、民の為なら自身の全てを差し出せる献身を。
彼らが認めないから、貴方は王には相応しくないのだと・・・そんな勝手を突き付ける事など出来ない。
だって周囲が勝手に変わっただけで、彼は彼で在り続けた・・・彼は何も変わっていないのに!
そう・・・言えれば良かった、見っとも無く泣き喚いても激情しても。
でも、言えなかった。だって・・・、
そのような人間たちの「王」となった所で、
果たしてアーデンは幸せなんだろうか・・・?
誰よりもアーデンの側に在って支えるべき自分が、そう思ってしまったから。
王も柵も全てを捨てて、人としての幸せや自由を・・・彼だって求めても良いのでは、と。
そしてその隣に、自分が居る事が出来れば・・・・・・、
黙り込んでしまったエイラに、男はそっと白いハンカチを差し出した。
泣いてはいない筈だった。人前で涙を流すなど、そんな醜態は晒さない。
でも確かに、彼が立ち去った後、泣き崩れてしまいそうだった。それ位のギリギリのところで自身を保っていた・・・正直、何故こんな余所者の男にここまで心を揺さぶられるのか、悔しくて仕方が無い。
それを否定したくて、何か言い返してやりたかったけれど、何を言っていいかも分からず。
それこそ口を開けば感情が溢れ出しそうで、涙が零れそうで。
手を取り半ば強引にハンカチを握らされても、押し返す事も言い返す事も出来ず。
「貴方方が私に不信感を抱くのは仕方ありません。
ですが私は祖父より、
ソルハイム王国の話を、お伽話替わりに聞かされ育ってきました。
その中で、再びソルハイムの民が一つの国に纏まる事が出来たなら、
自分には何が出来るだろうと・・・そう考え生きて来たのです。」
だってソルハイムの王は、可哀想だと思ったから。
王様だからと、何でも一人で頑張る王様の力になってあげたいと。
民の為に頑張るソルハイムの王様を支えてあげたいと、子供心に思ったから。
「ですから私のソムヌス様をお支えしたいという思いは、
嘘偽り無い本心です。
その事は、信じて頂きたい。」
「それから・・・不信感を抱かれては困りますので。
今日の事は、まだソムヌス様には内密に。」
明るい所までお送りしたい所ですが、私と一緒では具合が悪いでしょうから。
どうかお気を付けて、お戻り下さい。
遠ざかって行く男の背を、ただ黙って見送る事しか出来なかった。
手の中には、クシャクシャに握りつぶしてしまった白いハンカチが一枚。
悔しくて悔しくて・・・とてもそのハンカチを使う気にはなれなかった。
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