落書き帳の10ページ目
◆無断転載 禁止(ご確認下さい)◆ https://xxaoixx.blog.shinobi.jp/Entry/73/
FF15:レガリア(TYPE-F)で1000年の時を超える話《新約 46》
- 2025/08/25 (Mon) |
- ゲーム語り |
- Edit |
- ▲Top
■□■□■□■□■□■□■□■□
《今回の御品書き (FF15・二次創作モドキです) 》
【『ルシスの禁忌』とは (炎神の真実~神を運ぶ輿)】
《今回の御品書き (FF15・二次創作モドキです) 》
【『ルシスの禁忌』とは (炎神の真実~神を運ぶ輿)】
■□■□■□■□■□■□■□■□
【『ルシスの禁忌』とは (炎神の真実~神を運ぶ輿)】
玉座にアーデンが座し、民らを前に「新生ソルハイム王国」の建国を宣言すれば、自分達の悲願は果される・・・アーデンに付き従ってきた「王剣の一族」の者達は、そう信じて疑わなかった。
そう信じていたからこそ、遠い祖国から「石の玉座」を運ぶなんて苦行も厭わなかった。苦行とすら思わなかった。
それなのに、何故・・・こんな事に?
東の大陸の者達が、炎神イフリートやソルハイム王国に対して抵抗感を持つ可能性は、十分考えられる事で。だからこそ一行は、それらの「想い出・記憶」の影響を避け、辺境の地を選んで旅をして来た。
そして実際。その様な辺境の地に住む、その日の生活も儘ならない人々は、歴史学術から縁遠く。自分達の祖に当たるソルハイム王国の王・アーデンを前にしても、彼に縋り救いを求め感謝こそすれ、その事実に気付く事は無かった。
それが今になってアーデンの事を「自分達がこのような目にあっているのは、全部アイツのせいだ!」と・・・諸悪の根源の様に責め立てる。
その様な「想い出・記憶」全て忘れ、その施しを受けておきながら・・・その手に縋っておきながら、今になって掌を返し払い除け拒絶するなんて。
自分自身が救われた・・・それは紛れも無い事実で、それに対して感謝の念を持った事も事実な筈なのに。実体験として、その「真実」を得ている筈なのに。
自分自身が忘れていた・・・突如知り得た他人の「想い出・記憶」に流され、自らが得た「真実」を地に叩き付け踏みにじるなど、恩知らずにも程がある。
従者達にすれば、炎神イフリートとソルハイム王国の関係は国の根幹に係わる部分なので、ここを無かった事にするなど出来ない。だから「炎神イフリートは人類と敵対し、世界を滅ぼそうとした悪神」という誤解から弁明したい所だけれど。それが根本に根付く思想で容易では無い・・・直ぐには無理だとしても。
今、彼に救われた事は、身をもって知る「真実」なのだから。過去の「想い出・記憶」とは別に、今の彼を受け入れる事は出来る・・・それは当然の事と思っていた。
今は今、過去は過去。そのような複雑なやり取りも経て、これからは同じ「新生ソルハイム王国」の民として生きて行くのだと・・・そう思っていた、それなのに。
「多くの領民が、苦しい生活を強いられる中。
領主達は、人々の不満をぶつける先を必要とした。」
炎神イフリートは火山の噴火から人々を守ろうと、ラバティオ火山を背に立ち塞がった。
でも既にソルハイム王国と袂を分かつていた当時の人々は、そんな風には思えなかった。炎神イフリートが自分達を守ってくれるなんて、想像も出来なかった。それは当時の人々どころか、今のソルハイムの民だって至っていない「真実」の一つ。
だからこそ。そんな「真実」にも思い至らず「炎神イフリートが裏切ったのだ」と一方的に悪者にし、人々の悪感情を浴びせ続けた。ソルハイム王国の存在と共に、人々の「想い出・記憶」から消し去るよう主導した・・・一度は自分達に都合が悪いからと存在を封じた炎神イフリートを引きずり出し、諸悪の根源として悪神の座に据えて。
「ですから、今の彼らが炎神の裁きを受けた訳では無くとも。
炎神が、今の辛い生活の元凶と言われれば。
そこに怒りや憎しみを抱くのも、仕方ない事かと思います。」
炎神イフリートが何者か分からなくても「今の辛い生活の元凶」ともなれば・・・そう簡単に割り切れる事では無いでしょう、と。御前に呼ばれた老人は、恐縮しながらも自身の見解を述べた。
が、老人の話を聞いても従者達は納得など出来なかった。
そもそも炎神の裁きとは「私利私欲に走り人間同士で争い、剣を人殺しの道具とした人間達に対する炎神イフリートの粛清は、彼らが受けるべき当然の報い」とする彼らにすれば。炎神の裁きにより彼らが辛い生活を送る事になったのは自業自得であって、炎神を恨むなどお門違いも甚だしい。
しかも未だその事を反省もせず、我が主に怒りをぶつけるなど・・・やはり彼らと同じ思想を共有する事など不可能に思える、とても「同じソルハイムの民」とは思えなかった。
■□■□■□■□■□■□■□■□
それに問題は、もう一つ。
「ソムヌスが王だと、多くの者が勘違いしたのは何故だ?」
苛立ちを隠せない若い従者の声に、その場にいた者達の視線がソムヌスに集まるも・・・一番困惑しているのは彼自身であって、当然何故かなんて分かる筈が無い。
まだ子供の域は出ていないけれど・・・旅立った時は十歳にも満たなかったソムヌスも、数年の旅を続ける中で随分と成長していた。
とは言え、子供は子供。彼ら「王剣の一族」の中でも神事を執り行う「剣神の一族」にして、当代の「剣神バハムート(の御子)」という立場にあるとはいえ、見た目には守られる側の人間であって・・・彼らからしても、とても自分達を導いてくれる王には見えない筈。それなのに何故?
答える者の居ない沈黙の中・・・その答えは広場での子供の発言同様、予想外の者から齎された。
その場に居たのは、アーデン、エイラ、そしてソムヌスを含む「王剣の一族=従者」達と。
旅の道中でアーデン一行の信頼を得て、彼らの近くに取り立てられた「指導者=臣下」達。
そして広く民らの意見を聞く為にと集められていた、十数人程度の老若男女達で。
その中から、おずおずと一人の女性が手を挙げ。視線で発言を促され、言い難そうにこう言った。
「あの・・・それは・・・、
ソムヌス様が玉座に座っておられたので。
それを見て、詳しい事が分からない私達は、
ソムヌス様が王様なのかな・・・と、勘違いしてしまって。」
・・・その後、続いた沈黙に女性はわたわたと「ごめんなさい、ごめんなさい」と、謝るばかりで。その様子を気の毒に思いながらも、彼女の発言を引き取れる人間など居なかった。
彼女の発言はそれ程に、どう答えて良いか分からない内容だった。
確かに旅の最初の頃は、王に幼いソムヌスの同行を懇願された事。そのソムヌスの歩幅や体力を考えれば、担いだ玉座に座らせ運んだ方が良いだろうとの考えから、彼を玉座に座らせていた。
しかし何年にも渡る旅の中で、ソムヌスも心身ともに成長し。
旅の終わり頃には、自分よりも幼い子供が一行に付いてくるようになっていた・・・その様子を見て、自発的に玉座に座る事を固辞する様になっていたので。
一行としては「ソムヌスを玉座に座らせていたのは初期の頃と、やむを得ない必要に迫られた時だけ」で「ソムヌスが王だと勘違いされる程、彼を玉座に座らせていた」つもりは無かった・・・そもそも彼ら自身が神聖なる「王の玉座」に、王以外の人間が座るのを良しとは思っていなかったのだから。
もし勘違いを後押しする要因があったとすれば、海を「希望の道」を渡った時。確かにあのような奇跡的な場面において、玉座に座り運ばれていれば「大事に扱われている御方なのだ」と、思われても仕方が無い・・・のかもしれない。
だが、それにしたって・・・旅の意味を知る従者達や、アーデンに近い臣下達にすれば「あり得ない勘違い」としか言いようが無いのだけれど。
逆にアーデンに遠い者達・・・直接彼に接する機会も無く、意味も分からぬまま付いて来た大多数の者達にすれば「ソムヌスが玉座に座っていた」その場面だけが、脳内に鮮明に残っていて。そのイメージが全てで「ソムヌスが王だ」と思い込んでしまったのかもしれない。
他に考えられる原因というのなら・・・良くも悪くもアーデンは「王様らしくなかった」せいかもしれない。
勿論、従者達にとってアーデンは紛れも無く王だったので、最上級の敬意をもって接していた。
が、アーデン自身が畏まった態度を好まなかった事。
年齢層に幅があった事から、アーデン以外にも目上の者に対しては敬語を使っていた事。
それにソルハイム王国の慣習として、民らはアーデンの事を「王」とは呼ばなかった・・・常から親しみを込め「アーデン様」と呼んでいた事などが重なり。
加え、どれだけ控えるよう進言しても、彼は他の従者達に混じって・・・従者達の誰よりも親身となり、救いを求める者達の為に尽力していた。
「今直ぐには無理でも、
きっと良くなると信じれば、必ず病は癒えますよ。」
だから自分の力を信じて・・・と。純白の聖衣が汚れる事も厭わず、病や怪我に苦しむ者達を励まし続けた。
その様子は、所謂「王様」のイメージからは掛け離れていて・・・故にアーデンは「王様」とは思われなかったのかもしれない。
そういう意味では「子供だから無理はするな」と、余計な事は何もさせてもらえなかったソムヌスの方が「王様だから、大事にされている」と・・・何も知らない者達には、そういう風に見えたのかもしれない。
どちらにしたって、従者達にとって「王」とは「アーデン」の様な人物像だったので。臣下達にそう助言され「他国の王とは、そういうものなのか?」と、彼らは驚いた・・・「アーデンよりソムヌスの方が、王様っぽいと思った」と言われた所で、全く理解できなかったのだけれど。
何にせよ、それが「真実」を知らなかった故の、ただの勘違いに過ぎないのなら、
「それでは、ソムヌスの件に関しては、
誤解を解けば良いだけ・・・という事だな?」
それなら簡単な事だと・・・その場に居た従者や臣下達は、安心から胸を撫で下ろした。
が・・・それとは対照的に「皆の意見を聞きたい」と呼ばれていた者達が、互いの動きを窺うような視線を交錯させているのに、アーデンは気付いていた。
気付いていたけど、アーデンは何も言わず。
彼らの中から、先ほどの様な勇気をもって挙手する者も現れず。
今日のところは、これで解散となった。
■□■□■□■□■□■□■□■□
「誤解が解けるよう、説明はしているのですが。
やはり一部・・・と、言いますか。
中央から遠い者達ほど、ソムヌス様こそ王であると・・・。」
「我々も尽力しているのですが、
寧ろその様な者が、増え続けているようで。
どのような理由あってかは分かりませんが、
その様に扇動している者が居るのかもしれません。」
騒動から一週間。解決は簡単だ・・・と、思っていたソムヌスの件だったけれど、思っていた以上に梃子摺っているらしく。海すら渡り順調に来たというのに、ここに来て事態は暗礁に乗り上げていた・・・皮肉な事に。
ソムヌスが王と勘違いされていた件に関しては「彼はアーデンの従者の一人に過ぎず、幼い子供だから座らせていただけだ」と、説明すれば解決するものだと思っていたけど。先程の報告通り、いくら根気強く説明・説得しても「ソムヌスが王だ」と信じる者達は減るどころか、日に日に増加傾向にあり。
人間とは同じ意見の者が集まると気が大きくなり「それが正しい!」と自信を持ってしまう一面が有るようで。彼らにとっての賛同者が増えるにつれ、その声は次第に大きくなり。中にはわざわざ嘆願に来る者達や、正面切って怒声を浴びせる者達まで現れ、アーデンは身を案じる従者や臣下達に外出を禁じられる始末・・・明らかに事態は悪化していた。
しかし、それにしたって分からない・・・何故彼らが頑なに「ソムヌスが王だ」と言うのかが。
事態は悪化しているものの、従者や臣下達の説明・説得により、ソムヌスが玉座に座っていた誤解は解けている筈。
なら・・・認めたくはないが「炎神イフリートを崇める、ソルハイム王国の王・アーデン」を自分たちの王に認めたくないとしても、その代役は子供のソムヌスでなくても良い筈だ。それなのに何故?
その謎を解く鍵となりそうなのが、先の話にも出て来た「扇動している者が居るのかもしれない」という意見だけれど・・・それに関してはまだ憶測の域を出ておらず、当然有力情報も得られていない。得られていないのなら・・・、
「では彼らの代表者に、
話し合いの場を設けようと、呼び掛けてくれないか?」
「アーデン様、何を仰るのですか?!
その様な危険な事、お止め下さい!!」
何もその者が強硬手段に出るとは思っていない・・・仮にそのような輩なら、遠慮無く取り押さえる事が出来る。犯人を炙り出す事が目的なら、寧ろ有効だし好都合だ。
しかし人の好い主の事だ・・・そうでは無いだろう。説明を聞かずとも、そう思えてしまった。
案の定アーデンは何時もの穏やかな笑みを絶やさず、色めき立つ従者にこう告げた。
「こちらの呼び掛けに応じるかどうかで、
向こうの心持ちを窺い知る事も出来るだろう。
その者が正しく先導者であるなら、
皆の声を届ける為、必ず呼び掛けに応じる筈だ。」
つまり後ろ暗い気持ちで人々を扇動しているのなら、素性を明かしたくない筈で・・・進んで御前になど出て来られないだろうし。
素性を明かしてでも伝えたい事があるというのなら、此方もその覚悟には誠意を以て対応すべきだ、と。そう言いたいらしい。
なるほど、主の言う事は理解出来る。やはり共感する事は難しいけれど。
しかし、その様な事をすれば「ソムヌスを王に」とする・・・今、言われている「ソムヌス派」を増長させる事にならないだろうか?
それに従者達にとっては、そもそも「誰を王に選ぶか?」なんて、話し合いの余地もない決定事項なので。どのような覚悟を見せられた所で「そうですか、分かりました」と引き下がれる筈も無い。そうまでして話し合ったところで、結局は時間の無駄に思えた。が、
「王はアーデンであり、アーデンは王である。
これは建国以来、ソルハイム王国に語り継がれてきた言葉。
古の時代より、私達の王はアーデンだった。
だからこそ、私たちは彼らの事が理解出来ないし。
理解出来なければ、説得する事も難しい。
まずは事態を解決する為に、彼らの言い分を聞いてみましょう。」
そう、あくまでもこれは「事態を解決する為」の、情報収集であり前段取り。
従者達にとって「王はアーデンである」これは揺るぎない決定事項で・・・それは対の娘であるエイラにとっても当然の事。話し合いとは言っても、交渉に応じるつもりも譲歩するつもりも無い。
普段は「正しく聖女の様なお方だ」と評されるエイラだけれど、アーデンに係わる事となれば話は別で・・・彼を守る為なら、彼女は誰よりも現実的な判断を下す事が出来た。どちらかと言うとアーデンが物事を良い方に考え過ぎる節があるので、対の存在としてはそれでバランスが取れているのかもしれないけど・・・それは時折、従者達の背筋をゾクリと震わせる程で。
「お二人がそう仰るのであれば、その様に手配致します。」
実際のところ。アーデンを思ってのエイラの発言に異を唱えた事で、それを後悔する様な何かがあった事は無い。そもそもエイラは王の対の娘・・・つまり「王剣の一族」よりも格上で、彼女の意見に異を唱える事など、そうそう無いのだから。
しかし白銀の大地が、純白の雪渓が、透き通る氷床がどれだけ美しくても、人間が本能的に死の恐怖を感じるように。
「氷神の一族」「氷神シヴァの娘」であるエイラに対して、従者達が自分ですら気付かない心の奥底で、まるで冷たい手でスッと心に触れられるような・・・得体の知れない何かを感じ取っていたのは事実だった。
■□■□■□■□■□■□■□■□
あれから更に5日間後・・・とは言っても、不測の事態を想定した事前準備に5日間手間取っていただけで。アーデンから頼まれた「話し合いの場を設けよう」という臣下の呼び掛けに、その男は迷う事無くその場で名乗り出た。
アーデンの言い分を信じるなら「素性を明かしてでも伝えたい事がある」・・・しかも他の者に相談・助言を求めるでもなく、独断でそのような行動に出る事が出来るのだから。彼にすれば臆する事無く「自分達の主張こそ正しい」と胸を張って言える。そしてその主張は「多くの者達から支持を得ている」からこそ「中央の人間に伝えねばならない」との使命感あっての事だろう。
あくまでも「アーデンの言い分を信じるなら」だけれど。
その様な経緯を経て。その男は賛同者達の意見を携え、アーデン達の前に一人でやって来た。てっきり大勢を連れ、数に任せて場の流れを掌握するつもりだろうと警戒していたのに、だ。
正直、呆気に取られ、拍子抜けもした・・・が、その一瞬後には、その厚顔さに考えを改めた。
賛同者は多数居る筈なのに、彼は一人でやって来た。
それは、自分一人で場を掌握できる・・・という自信からか。
それとも、一人の方が此方の心証が良いだろう・・・という計算か。
どちらにしても勝算あっての事で・・・この男、一人だと侮らない方が良いだろう。その事に気付いた従者達は、王の御前で涼しい顔して立っている男に対し警戒を強めた。
が、肝心のアーデンはその限りでは無く。
「君たちの意見を、聞いてみたいと思っていたんだ。
呼び掛けに応じてくれた事、感謝する。」
感謝など、勿体無い言葉だ・・・と、従者達は内心思ったけれど。その言葉も社交辞令では無く本心なのだろうから、どうしようもない。
そして、そのようなアーデンの言葉を、彼がどの様な意味で捉えたのかは分からない。
表向き。彼のアーデンへの態度・対応は、王族位に対するもの・・・最上級の敬意を示すものだったけれど。従者達にすれば、自分達の王を認めない。その位から引き摺り下ろそうと画策しているかもしれない人間なので。どうあったって、彼を信用する事なんて出来る筈が無い。なので・・・、
「ソムヌスに対する誤解は解けている筈だが、
未だ多くの者が、ソムヌスが王だと言うのは何故だ?
子供を王に据えたところで、一体何が出来ると言うのだ?」
暗に「後ろで人を引く存在」を仄めかし、それが「お前では無いのか?」と挑発する。何もできない子供を王を据え、数に物を言わせ、自分達に良いよう国を動かすつもりではないのか・・・と。
しかし彼は、若い従者の敵意が透けて見える言葉にも動じず。逆に彼の言葉を取り、こう言った。
「確かに幼いソムヌス様には、何も出来ないかもしれません。
しかし王の役目とは、人々の希望である事。
何かをするのは周囲の人間の務めであって、
王自ら、何かをする必要など無いのです。」
・・・他所の土地の王に対するイメージとは、そのようなものなのだろうか?
王とは自ら先頭に立ち、どのような困難にあっても立ち止まる事無く民を導く者。そう信じ仕えて来た従者達にとって、それは到底理解出来る事では無かったけれど。彼の言い分は、こうだった。
王の役目とは「希望」である事。それは「この方に付いて行けば大丈夫」と民らが信じられる導き手・・・という意味では、今のアーデンの役割と変わらない。
が、違う点は「王とは自ら先頭に立ち、どのような困難にあっても立ち止まる事無く民を導く者」であっても「先頭に立ち、どのような困難にあっても立ち止まる事無く民を導く」為の道造りをするのは王自身でなくても良い・・・と言う事で。
何も王自身が汗水垂らし畑を耕す必要も無ければ、専門でもない医療行為に口を出す必要も無い。そのような事は、王を守り支える「周囲の人間達=臣下達」がやれば良い事だし。何なら「王という象徴」に祭り上げ、演出してやるのでも良い・・・と言う事。
確かにそれでは「お飾りの王」の様だけど、今の民らに必要なのは「この方に付いて行けば大丈夫」と信じられる「希望の光」なので。
王には、王にしか出来ない役目を背負って頂こう・・・それが「希望の光」である事で、王や臣下達が真に民らの事を考えるなら。
臣下達は「王が希望の光であれるように」と、自身の全てを犠牲にしてでも王に尽くせる筈だし。
そうであれば、王はそのような臣下達の思いに応える為にも「民の希望の光であれるように」と思えるはず。
つまりは究極の適材適所であって・・・幼いソムヌスが何も出来なくても、周囲の臣下達が「王=民の希望の光」であれるよう守り支えてやれば問題無いのだと。
「しかし、民は王の人となりを見ている。
そのようなお膳立てされた王に、
自身の命や生活を預けられるものか?」
「お言葉を返すようですが・・・。
それでは「自分達の不幸の元凶」と信じる者に、
貴方は自身の命や生活を預けられますか?」
「だから、それは謂れも無い誤解だと・・・!」
「今、問題なのは「民らがそう思っている」という事実です。
私も貴方方の今までの王政を批判するつもりはありません。
今までの歴史があって、それが当たり前に成立していた。
・・・それは紛れも無い事実でしょう。」
「今までの歴史があるからこそ、成立していただけで。
彼らにとってはそうではない・・・と、言いたいのかしら?」
「寧ろ、彼らなりの苦しい歴史があるからこそ、
彼らはアーデン様を「希望の光」とは思えない。
それは王を選ぶにあたって致命的な事です。」
「黙って聞いていれば、主の苦労も知らず・・・!」
「私の祖父は歴史研究を生業としていましたので、
ソルハイム王国との歴史も聞き及んでおります。
尤も、大っぴらに出来る内容でもないので、
祖父がお伽話がてらに・・・と言った程度ですが。」
「では「真実」を知っていながら、
我らが主を、王から引き摺り下ろそうと言うのか?」
「私はアーデン様を「真に民を思う王」と信じているからこそ、
多くの民を代表し、お願い申し上げます。
彼らの「希望の光」を絶やさぬ為、
王位をソムヌス様に譲っていただきたい、と。」
そんな事、許される筈が無い!
そもそも「多くの民」とは何だ?主の事を理解もせず、ただ付いて来ただけの人間達ではないか?そのような者達の為、何故我らが守り続けて来た信念を捻じ曲げねばならないのか?
彼らとは分かり合えない、と。当の昔に分かり切っていた・・・と思っていたけれど、想像以上の価値観の違いに、何からどうして良いのか分からない。
そしてこの様な不躾な発言を宣う男に対し、自分達の主がどのような態度を示すのかも分からない・・・それが何より恐ろしかった。
そのような、誰も何も言い出せない静寂の中。
「君の言い分は分かった。
だが見ての通り、私を王と信じてくれる者達が居る以上、
先導者として、彼らを道端に放り出す訳には行かない。
そう簡単に王位を譲るという事は出来ないんだ。」
ゴメンね・・・とでも言い足しそうなアーデンの口調に臣下達は毒気を抜かれるも、事態が好転した訳では無い。
男はアーデンの性格も織り込み済み・・・という事か、
「たとえ簡単でなくても、
アーデン様は最善の道を選んで下さると信じています。
多くの・・・同じソルハイムの民の為なら。」
従者達は「同じソルハイムの民の為」・・・この言葉に奥歯を噛みしめた。噛み締め、飛び出しそうになった言葉を、グッと飲み込む。
そう。自分達にとっては「主の事を理解もせず、ただ付いて来ただけの人間達」だとしても、主にとっては「同じソルハイムの民」・・・彼らも導くべき同胞であって。
「確かに私は、民が幸せになれるなら、
必ずしも私が王である必要は無いと思っているんだ。」
決まり事のように「炎神イフリートの現人神」より続く「炎神の一族」だから・・・と、選ばれるだけの「王」に、王たる資格はない。
「何を?!
我らの王は、アーデン様以外あり得ません!」
彼らにとってはそうだろう・・・事実、彼らは建国以来アーデンを「王」として守り支えてきてくれた一族の末裔なのだから。彼らのその想いを疑う事は、それこそ彼らに対する裏切りだ。でも・・・、
「確かに、今まで民が選んでくれていたのは、
私達の一族、チェラム家の者だった・・・有難い事にね。
でも王は民あっての王であり、民の為の王なのだから。
民が私以外の者を王にと望み選ぶなら、
その者が民を正しく導いてくれると言うのなら、
私は民の意思を尊重したいと思うんだ。」
民意に反して「王」になった所で、民を導く事など出来ず。
当然、民に選ばれなかった者に、民を導く事も出来ないのだから。
それが民の意思、民の為になるのなら・・・アーデン自身は、自分が王である必要は無いと思っているし。
王に忠誠を誓う従者達だからこそ「それが民の為になるなら」と、自分と同じ気持ちで受け入れてくれると、当たり前に信じている。
理解してくれる・・・ではなく、共感出来ると。
だってそれが民の為になるのだから。
■□■□■□■□■□■□■□■□
「エイラ様・・・我々は、どうすべきなのでしょうか?」
その日の会合では当然、結論など出ず。次回以降の会合には彼にも声を掛けるように・・・とのアーデンの締めの言葉を以て解散となった。
その会合でのアーデンの一連の発言を思い返し、意見を求める従者に返す言葉も無く、エイラは心の内でひっそりとため息を吐く。
どうすべき・・・など、考えても仕方が無い。
自分達は、王の御心のままに・・・「全ては我らが王の為に」と誓った身。
アーデンが「民の為」と決めたのなら、自分達も「民の為」だと従うしかないのだから。
勿論、エイラや従者達にとって、アーデン以外の王などあり得ない。
ソムヌスの事は同じ「王剣の一族」として信頼しているし、「剣神バハムートの御子」として信仰もしているが・・・ソルハイム王国の王として認められるかと言われれば話は別で。同じソルハイムの思想を持つ、気心の知れた人間だからといって、アーデンの代わりにとは考えられない。
しかし多くの民が「ソムヌスが王だと勘違いした原因」が「ソムヌスが玉座に座っていた」から・・・皆に担がれ「希望の道」を行くソムヌスの姿が、彼らの「希望」と重なった結果にあると聞いていたアーデンは、
「そのような勘違いを、真に受ける必要はありません。
それはまやかし・・・無知故の勝手な幻想です。」
厳しく言い捨てる従者に対し、目を伏せ首を横に振り・・・彼が普段見せる事の無い、緩やかな否定の意を示しこう告げた。
「彼らがそう信じた事は事実だ・・・それは認めてやって欲しい。
それに彼らがソムヌスが王であると勘違いした原因が、
あの子が玉座に座っていた事にあるのなら・・・、」
「一番最初・・・ソルハイムを発つ時。
ソムヌスを玉座に担ぎ上げたのは私だ。
つまり彼らの誤解の発端は、私にあると言う事。
責めるなら、私を責めて貰って構わない。」
王剣の一族の者達は、ソルハイム王国から石で出来た「王の玉座」を持ち出すにあたり、
玉座としての最小限の形と、その他の各パーツに分けた後。
更に軽量化を図る為、建国時より継承されるソルハイムの歴史「石の座面」と。玉座の背面にあしらわれていた石板・・・ソルハイムの繁栄を示す4つの地域の紋章からなる「ソルハイムの紋章」部分を取り外し。
その二つを用意しておいた木製の玉座に取り付け、それを井桁に組んだ担ぎ棒に固定する事で、ソルハイムの歴史と魂を、まだ見ぬ新たな地へ運ぼうと試みた。
結果、その様相は「神を運ぶ輿=神輿」の様な見た目になっていて。
アーデンはソムヌスの前にしゃがみ込むと、泣き出しそうな弟を持ち上げ・・・彼らが担ぐ玉座に座らせた。
つまりアーデンはその事を以て「ソムヌスを神輿に担ぎ上げたのは、他ならぬ自分」なのだから「彼らの誤解の発端は自分にある」と、言いたいのだろう。
それこそ真に受ける必要などない、言葉遊びにも程がある。
でも、それでも事実には違いないのだと・・・そこに在るのは「ソムヌスを神輿に担ぎ上げたのは自分」という事実を背負う潔さ。
ソムヌスを神輿に担ぎ上げたのはアーデンで、今更それを悔いた所で後の祭り。
従者達にとっては「まさか、こんな事になるなんて・・・」と、随分と皮肉な話だった。
【『ルシスの禁忌』とは (炎神の真実~神を運ぶ輿)】
玉座にアーデンが座し、民らを前に「新生ソルハイム王国」の建国を宣言すれば、自分達の悲願は果される・・・アーデンに付き従ってきた「王剣の一族」の者達は、そう信じて疑わなかった。
そう信じていたからこそ、遠い祖国から「石の玉座」を運ぶなんて苦行も厭わなかった。苦行とすら思わなかった。
それなのに、何故・・・こんな事に?
東の大陸の者達が、炎神イフリートやソルハイム王国に対して抵抗感を持つ可能性は、十分考えられる事で。だからこそ一行は、それらの「想い出・記憶」の影響を避け、辺境の地を選んで旅をして来た。
そして実際。その様な辺境の地に住む、その日の生活も儘ならない人々は、歴史学術から縁遠く。自分達の祖に当たるソルハイム王国の王・アーデンを前にしても、彼に縋り救いを求め感謝こそすれ、その事実に気付く事は無かった。
それが今になってアーデンの事を「自分達がこのような目にあっているのは、全部アイツのせいだ!」と・・・諸悪の根源の様に責め立てる。
その様な「想い出・記憶」全て忘れ、その施しを受けておきながら・・・その手に縋っておきながら、今になって掌を返し払い除け拒絶するなんて。
自分自身が救われた・・・それは紛れも無い事実で、それに対して感謝の念を持った事も事実な筈なのに。実体験として、その「真実」を得ている筈なのに。
自分自身が忘れていた・・・突如知り得た他人の「想い出・記憶」に流され、自らが得た「真実」を地に叩き付け踏みにじるなど、恩知らずにも程がある。
従者達にすれば、炎神イフリートとソルハイム王国の関係は国の根幹に係わる部分なので、ここを無かった事にするなど出来ない。だから「炎神イフリートは人類と敵対し、世界を滅ぼそうとした悪神」という誤解から弁明したい所だけれど。それが根本に根付く思想で容易では無い・・・直ぐには無理だとしても。
今、彼に救われた事は、身をもって知る「真実」なのだから。過去の「想い出・記憶」とは別に、今の彼を受け入れる事は出来る・・・それは当然の事と思っていた。
今は今、過去は過去。そのような複雑なやり取りも経て、これからは同じ「新生ソルハイム王国」の民として生きて行くのだと・・・そう思っていた、それなのに。
「多くの領民が、苦しい生活を強いられる中。
領主達は、人々の不満をぶつける先を必要とした。」
炎神イフリートは火山の噴火から人々を守ろうと、ラバティオ火山を背に立ち塞がった。
でも既にソルハイム王国と袂を分かつていた当時の人々は、そんな風には思えなかった。炎神イフリートが自分達を守ってくれるなんて、想像も出来なかった。それは当時の人々どころか、今のソルハイムの民だって至っていない「真実」の一つ。
だからこそ。そんな「真実」にも思い至らず「炎神イフリートが裏切ったのだ」と一方的に悪者にし、人々の悪感情を浴びせ続けた。ソルハイム王国の存在と共に、人々の「想い出・記憶」から消し去るよう主導した・・・一度は自分達に都合が悪いからと存在を封じた炎神イフリートを引きずり出し、諸悪の根源として悪神の座に据えて。
「ですから、今の彼らが炎神の裁きを受けた訳では無くとも。
炎神が、今の辛い生活の元凶と言われれば。
そこに怒りや憎しみを抱くのも、仕方ない事かと思います。」
炎神イフリートが何者か分からなくても「今の辛い生活の元凶」ともなれば・・・そう簡単に割り切れる事では無いでしょう、と。御前に呼ばれた老人は、恐縮しながらも自身の見解を述べた。
が、老人の話を聞いても従者達は納得など出来なかった。
そもそも炎神の裁きとは「私利私欲に走り人間同士で争い、剣を人殺しの道具とした人間達に対する炎神イフリートの粛清は、彼らが受けるべき当然の報い」とする彼らにすれば。炎神の裁きにより彼らが辛い生活を送る事になったのは自業自得であって、炎神を恨むなどお門違いも甚だしい。
しかも未だその事を反省もせず、我が主に怒りをぶつけるなど・・・やはり彼らと同じ思想を共有する事など不可能に思える、とても「同じソルハイムの民」とは思えなかった。
■□■□■□■□■□■□■□■□
それに問題は、もう一つ。
「ソムヌスが王だと、多くの者が勘違いしたのは何故だ?」
苛立ちを隠せない若い従者の声に、その場にいた者達の視線がソムヌスに集まるも・・・一番困惑しているのは彼自身であって、当然何故かなんて分かる筈が無い。
まだ子供の域は出ていないけれど・・・旅立った時は十歳にも満たなかったソムヌスも、数年の旅を続ける中で随分と成長していた。
とは言え、子供は子供。彼ら「王剣の一族」の中でも神事を執り行う「剣神の一族」にして、当代の「剣神バハムート(の御子)」という立場にあるとはいえ、見た目には守られる側の人間であって・・・彼らからしても、とても自分達を導いてくれる王には見えない筈。それなのに何故?
答える者の居ない沈黙の中・・・その答えは広場での子供の発言同様、予想外の者から齎された。
その場に居たのは、アーデン、エイラ、そしてソムヌスを含む「王剣の一族=従者」達と。
旅の道中でアーデン一行の信頼を得て、彼らの近くに取り立てられた「指導者=臣下」達。
そして広く民らの意見を聞く為にと集められていた、十数人程度の老若男女達で。
その中から、おずおずと一人の女性が手を挙げ。視線で発言を促され、言い難そうにこう言った。
「あの・・・それは・・・、
ソムヌス様が玉座に座っておられたので。
それを見て、詳しい事が分からない私達は、
ソムヌス様が王様なのかな・・・と、勘違いしてしまって。」
・・・その後、続いた沈黙に女性はわたわたと「ごめんなさい、ごめんなさい」と、謝るばかりで。その様子を気の毒に思いながらも、彼女の発言を引き取れる人間など居なかった。
彼女の発言はそれ程に、どう答えて良いか分からない内容だった。
確かに旅の最初の頃は、王に幼いソムヌスの同行を懇願された事。そのソムヌスの歩幅や体力を考えれば、担いだ玉座に座らせ運んだ方が良いだろうとの考えから、彼を玉座に座らせていた。
しかし何年にも渡る旅の中で、ソムヌスも心身ともに成長し。
旅の終わり頃には、自分よりも幼い子供が一行に付いてくるようになっていた・・・その様子を見て、自発的に玉座に座る事を固辞する様になっていたので。
一行としては「ソムヌスを玉座に座らせていたのは初期の頃と、やむを得ない必要に迫られた時だけ」で「ソムヌスが王だと勘違いされる程、彼を玉座に座らせていた」つもりは無かった・・・そもそも彼ら自身が神聖なる「王の玉座」に、王以外の人間が座るのを良しとは思っていなかったのだから。
もし勘違いを後押しする要因があったとすれば、海を「希望の道」を渡った時。確かにあのような奇跡的な場面において、玉座に座り運ばれていれば「大事に扱われている御方なのだ」と、思われても仕方が無い・・・のかもしれない。
だが、それにしたって・・・旅の意味を知る従者達や、アーデンに近い臣下達にすれば「あり得ない勘違い」としか言いようが無いのだけれど。
逆にアーデンに遠い者達・・・直接彼に接する機会も無く、意味も分からぬまま付いて来た大多数の者達にすれば「ソムヌスが玉座に座っていた」その場面だけが、脳内に鮮明に残っていて。そのイメージが全てで「ソムヌスが王だ」と思い込んでしまったのかもしれない。
他に考えられる原因というのなら・・・良くも悪くもアーデンは「王様らしくなかった」せいかもしれない。
勿論、従者達にとってアーデンは紛れも無く王だったので、最上級の敬意をもって接していた。
が、アーデン自身が畏まった態度を好まなかった事。
年齢層に幅があった事から、アーデン以外にも目上の者に対しては敬語を使っていた事。
それにソルハイム王国の慣習として、民らはアーデンの事を「王」とは呼ばなかった・・・常から親しみを込め「アーデン様」と呼んでいた事などが重なり。
加え、どれだけ控えるよう進言しても、彼は他の従者達に混じって・・・従者達の誰よりも親身となり、救いを求める者達の為に尽力していた。
「今直ぐには無理でも、
きっと良くなると信じれば、必ず病は癒えますよ。」
だから自分の力を信じて・・・と。純白の聖衣が汚れる事も厭わず、病や怪我に苦しむ者達を励まし続けた。
その様子は、所謂「王様」のイメージからは掛け離れていて・・・故にアーデンは「王様」とは思われなかったのかもしれない。
そういう意味では「子供だから無理はするな」と、余計な事は何もさせてもらえなかったソムヌスの方が「王様だから、大事にされている」と・・・何も知らない者達には、そういう風に見えたのかもしれない。
どちらにしたって、従者達にとって「王」とは「アーデン」の様な人物像だったので。臣下達にそう助言され「他国の王とは、そういうものなのか?」と、彼らは驚いた・・・「アーデンよりソムヌスの方が、王様っぽいと思った」と言われた所で、全く理解できなかったのだけれど。
何にせよ、それが「真実」を知らなかった故の、ただの勘違いに過ぎないのなら、
「それでは、ソムヌスの件に関しては、
誤解を解けば良いだけ・・・という事だな?」
それなら簡単な事だと・・・その場に居た従者や臣下達は、安心から胸を撫で下ろした。
が・・・それとは対照的に「皆の意見を聞きたい」と呼ばれていた者達が、互いの動きを窺うような視線を交錯させているのに、アーデンは気付いていた。
気付いていたけど、アーデンは何も言わず。
彼らの中から、先ほどの様な勇気をもって挙手する者も現れず。
今日のところは、これで解散となった。
■□■□■□■□■□■□■□■□
「誤解が解けるよう、説明はしているのですが。
やはり一部・・・と、言いますか。
中央から遠い者達ほど、ソムヌス様こそ王であると・・・。」
「我々も尽力しているのですが、
寧ろその様な者が、増え続けているようで。
どのような理由あってかは分かりませんが、
その様に扇動している者が居るのかもしれません。」
騒動から一週間。解決は簡単だ・・・と、思っていたソムヌスの件だったけれど、思っていた以上に梃子摺っているらしく。海すら渡り順調に来たというのに、ここに来て事態は暗礁に乗り上げていた・・・皮肉な事に。
ソムヌスが王と勘違いされていた件に関しては「彼はアーデンの従者の一人に過ぎず、幼い子供だから座らせていただけだ」と、説明すれば解決するものだと思っていたけど。先程の報告通り、いくら根気強く説明・説得しても「ソムヌスが王だ」と信じる者達は減るどころか、日に日に増加傾向にあり。
人間とは同じ意見の者が集まると気が大きくなり「それが正しい!」と自信を持ってしまう一面が有るようで。彼らにとっての賛同者が増えるにつれ、その声は次第に大きくなり。中にはわざわざ嘆願に来る者達や、正面切って怒声を浴びせる者達まで現れ、アーデンは身を案じる従者や臣下達に外出を禁じられる始末・・・明らかに事態は悪化していた。
しかし、それにしたって分からない・・・何故彼らが頑なに「ソムヌスが王だ」と言うのかが。
事態は悪化しているものの、従者や臣下達の説明・説得により、ソムヌスが玉座に座っていた誤解は解けている筈。
なら・・・認めたくはないが「炎神イフリートを崇める、ソルハイム王国の王・アーデン」を自分たちの王に認めたくないとしても、その代役は子供のソムヌスでなくても良い筈だ。それなのに何故?
その謎を解く鍵となりそうなのが、先の話にも出て来た「扇動している者が居るのかもしれない」という意見だけれど・・・それに関してはまだ憶測の域を出ておらず、当然有力情報も得られていない。得られていないのなら・・・、
「では彼らの代表者に、
話し合いの場を設けようと、呼び掛けてくれないか?」
「アーデン様、何を仰るのですか?!
その様な危険な事、お止め下さい!!」
何もその者が強硬手段に出るとは思っていない・・・仮にそのような輩なら、遠慮無く取り押さえる事が出来る。犯人を炙り出す事が目的なら、寧ろ有効だし好都合だ。
しかし人の好い主の事だ・・・そうでは無いだろう。説明を聞かずとも、そう思えてしまった。
案の定アーデンは何時もの穏やかな笑みを絶やさず、色めき立つ従者にこう告げた。
「こちらの呼び掛けに応じるかどうかで、
向こうの心持ちを窺い知る事も出来るだろう。
その者が正しく先導者であるなら、
皆の声を届ける為、必ず呼び掛けに応じる筈だ。」
つまり後ろ暗い気持ちで人々を扇動しているのなら、素性を明かしたくない筈で・・・進んで御前になど出て来られないだろうし。
素性を明かしてでも伝えたい事があるというのなら、此方もその覚悟には誠意を以て対応すべきだ、と。そう言いたいらしい。
なるほど、主の言う事は理解出来る。やはり共感する事は難しいけれど。
しかし、その様な事をすれば「ソムヌスを王に」とする・・・今、言われている「ソムヌス派」を増長させる事にならないだろうか?
それに従者達にとっては、そもそも「誰を王に選ぶか?」なんて、話し合いの余地もない決定事項なので。どのような覚悟を見せられた所で「そうですか、分かりました」と引き下がれる筈も無い。そうまでして話し合ったところで、結局は時間の無駄に思えた。が、
「王はアーデンであり、アーデンは王である。
これは建国以来、ソルハイム王国に語り継がれてきた言葉。
古の時代より、私達の王はアーデンだった。
だからこそ、私たちは彼らの事が理解出来ないし。
理解出来なければ、説得する事も難しい。
まずは事態を解決する為に、彼らの言い分を聞いてみましょう。」
そう、あくまでもこれは「事態を解決する為」の、情報収集であり前段取り。
従者達にとって「王はアーデンである」これは揺るぎない決定事項で・・・それは対の娘であるエイラにとっても当然の事。話し合いとは言っても、交渉に応じるつもりも譲歩するつもりも無い。
普段は「正しく聖女の様なお方だ」と評されるエイラだけれど、アーデンに係わる事となれば話は別で・・・彼を守る為なら、彼女は誰よりも現実的な判断を下す事が出来た。どちらかと言うとアーデンが物事を良い方に考え過ぎる節があるので、対の存在としてはそれでバランスが取れているのかもしれないけど・・・それは時折、従者達の背筋をゾクリと震わせる程で。
「お二人がそう仰るのであれば、その様に手配致します。」
実際のところ。アーデンを思ってのエイラの発言に異を唱えた事で、それを後悔する様な何かがあった事は無い。そもそもエイラは王の対の娘・・・つまり「王剣の一族」よりも格上で、彼女の意見に異を唱える事など、そうそう無いのだから。
しかし白銀の大地が、純白の雪渓が、透き通る氷床がどれだけ美しくても、人間が本能的に死の恐怖を感じるように。
「氷神の一族」「氷神シヴァの娘」であるエイラに対して、従者達が自分ですら気付かない心の奥底で、まるで冷たい手でスッと心に触れられるような・・・得体の知れない何かを感じ取っていたのは事実だった。
■□■□■□■□■□■□■□■□
あれから更に5日間後・・・とは言っても、不測の事態を想定した事前準備に5日間手間取っていただけで。アーデンから頼まれた「話し合いの場を設けよう」という臣下の呼び掛けに、その男は迷う事無くその場で名乗り出た。
アーデンの言い分を信じるなら「素性を明かしてでも伝えたい事がある」・・・しかも他の者に相談・助言を求めるでもなく、独断でそのような行動に出る事が出来るのだから。彼にすれば臆する事無く「自分達の主張こそ正しい」と胸を張って言える。そしてその主張は「多くの者達から支持を得ている」からこそ「中央の人間に伝えねばならない」との使命感あっての事だろう。
あくまでも「アーデンの言い分を信じるなら」だけれど。
その様な経緯を経て。その男は賛同者達の意見を携え、アーデン達の前に一人でやって来た。てっきり大勢を連れ、数に任せて場の流れを掌握するつもりだろうと警戒していたのに、だ。
正直、呆気に取られ、拍子抜けもした・・・が、その一瞬後には、その厚顔さに考えを改めた。
賛同者は多数居る筈なのに、彼は一人でやって来た。
それは、自分一人で場を掌握できる・・・という自信からか。
それとも、一人の方が此方の心証が良いだろう・・・という計算か。
どちらにしても勝算あっての事で・・・この男、一人だと侮らない方が良いだろう。その事に気付いた従者達は、王の御前で涼しい顔して立っている男に対し警戒を強めた。
が、肝心のアーデンはその限りでは無く。
「君たちの意見を、聞いてみたいと思っていたんだ。
呼び掛けに応じてくれた事、感謝する。」
感謝など、勿体無い言葉だ・・・と、従者達は内心思ったけれど。その言葉も社交辞令では無く本心なのだろうから、どうしようもない。
そして、そのようなアーデンの言葉を、彼がどの様な意味で捉えたのかは分からない。
表向き。彼のアーデンへの態度・対応は、王族位に対するもの・・・最上級の敬意を示すものだったけれど。従者達にすれば、自分達の王を認めない。その位から引き摺り下ろそうと画策しているかもしれない人間なので。どうあったって、彼を信用する事なんて出来る筈が無い。なので・・・、
「ソムヌスに対する誤解は解けている筈だが、
未だ多くの者が、ソムヌスが王だと言うのは何故だ?
子供を王に据えたところで、一体何が出来ると言うのだ?」
暗に「後ろで人を引く存在」を仄めかし、それが「お前では無いのか?」と挑発する。何もできない子供を王を据え、数に物を言わせ、自分達に良いよう国を動かすつもりではないのか・・・と。
しかし彼は、若い従者の敵意が透けて見える言葉にも動じず。逆に彼の言葉を取り、こう言った。
「確かに幼いソムヌス様には、何も出来ないかもしれません。
しかし王の役目とは、人々の希望である事。
何かをするのは周囲の人間の務めであって、
王自ら、何かをする必要など無いのです。」
・・・他所の土地の王に対するイメージとは、そのようなものなのだろうか?
王とは自ら先頭に立ち、どのような困難にあっても立ち止まる事無く民を導く者。そう信じ仕えて来た従者達にとって、それは到底理解出来る事では無かったけれど。彼の言い分は、こうだった。
王の役目とは「希望」である事。それは「この方に付いて行けば大丈夫」と民らが信じられる導き手・・・という意味では、今のアーデンの役割と変わらない。
が、違う点は「王とは自ら先頭に立ち、どのような困難にあっても立ち止まる事無く民を導く者」であっても「先頭に立ち、どのような困難にあっても立ち止まる事無く民を導く」為の道造りをするのは王自身でなくても良い・・・と言う事で。
何も王自身が汗水垂らし畑を耕す必要も無ければ、専門でもない医療行為に口を出す必要も無い。そのような事は、王を守り支える「周囲の人間達=臣下達」がやれば良い事だし。何なら「王という象徴」に祭り上げ、演出してやるのでも良い・・・と言う事。
確かにそれでは「お飾りの王」の様だけど、今の民らに必要なのは「この方に付いて行けば大丈夫」と信じられる「希望の光」なので。
王には、王にしか出来ない役目を背負って頂こう・・・それが「希望の光」である事で、王や臣下達が真に民らの事を考えるなら。
臣下達は「王が希望の光であれるように」と、自身の全てを犠牲にしてでも王に尽くせる筈だし。
そうであれば、王はそのような臣下達の思いに応える為にも「民の希望の光であれるように」と思えるはず。
つまりは究極の適材適所であって・・・幼いソムヌスが何も出来なくても、周囲の臣下達が「王=民の希望の光」であれるよう守り支えてやれば問題無いのだと。
「しかし、民は王の人となりを見ている。
そのようなお膳立てされた王に、
自身の命や生活を預けられるものか?」
「お言葉を返すようですが・・・。
それでは「自分達の不幸の元凶」と信じる者に、
貴方は自身の命や生活を預けられますか?」
「だから、それは謂れも無い誤解だと・・・!」
「今、問題なのは「民らがそう思っている」という事実です。
私も貴方方の今までの王政を批判するつもりはありません。
今までの歴史があって、それが当たり前に成立していた。
・・・それは紛れも無い事実でしょう。」
「今までの歴史があるからこそ、成立していただけで。
彼らにとってはそうではない・・・と、言いたいのかしら?」
「寧ろ、彼らなりの苦しい歴史があるからこそ、
彼らはアーデン様を「希望の光」とは思えない。
それは王を選ぶにあたって致命的な事です。」
「黙って聞いていれば、主の苦労も知らず・・・!」
「私の祖父は歴史研究を生業としていましたので、
ソルハイム王国との歴史も聞き及んでおります。
尤も、大っぴらに出来る内容でもないので、
祖父がお伽話がてらに・・・と言った程度ですが。」
「では「真実」を知っていながら、
我らが主を、王から引き摺り下ろそうと言うのか?」
「私はアーデン様を「真に民を思う王」と信じているからこそ、
多くの民を代表し、お願い申し上げます。
彼らの「希望の光」を絶やさぬ為、
王位をソムヌス様に譲っていただきたい、と。」
そんな事、許される筈が無い!
そもそも「多くの民」とは何だ?主の事を理解もせず、ただ付いて来ただけの人間達ではないか?そのような者達の為、何故我らが守り続けて来た信念を捻じ曲げねばならないのか?
彼らとは分かり合えない、と。当の昔に分かり切っていた・・・と思っていたけれど、想像以上の価値観の違いに、何からどうして良いのか分からない。
そしてこの様な不躾な発言を宣う男に対し、自分達の主がどのような態度を示すのかも分からない・・・それが何より恐ろしかった。
そのような、誰も何も言い出せない静寂の中。
「君の言い分は分かった。
だが見ての通り、私を王と信じてくれる者達が居る以上、
先導者として、彼らを道端に放り出す訳には行かない。
そう簡単に王位を譲るという事は出来ないんだ。」
ゴメンね・・・とでも言い足しそうなアーデンの口調に臣下達は毒気を抜かれるも、事態が好転した訳では無い。
男はアーデンの性格も織り込み済み・・・という事か、
「たとえ簡単でなくても、
アーデン様は最善の道を選んで下さると信じています。
多くの・・・同じソルハイムの民の為なら。」
従者達は「同じソルハイムの民の為」・・・この言葉に奥歯を噛みしめた。噛み締め、飛び出しそうになった言葉を、グッと飲み込む。
そう。自分達にとっては「主の事を理解もせず、ただ付いて来ただけの人間達」だとしても、主にとっては「同じソルハイムの民」・・・彼らも導くべき同胞であって。
「確かに私は、民が幸せになれるなら、
必ずしも私が王である必要は無いと思っているんだ。」
決まり事のように「炎神イフリートの現人神」より続く「炎神の一族」だから・・・と、選ばれるだけの「王」に、王たる資格はない。
「何を?!
我らの王は、アーデン様以外あり得ません!」
彼らにとってはそうだろう・・・事実、彼らは建国以来アーデンを「王」として守り支えてきてくれた一族の末裔なのだから。彼らのその想いを疑う事は、それこそ彼らに対する裏切りだ。でも・・・、
「確かに、今まで民が選んでくれていたのは、
私達の一族、チェラム家の者だった・・・有難い事にね。
でも王は民あっての王であり、民の為の王なのだから。
民が私以外の者を王にと望み選ぶなら、
その者が民を正しく導いてくれると言うのなら、
私は民の意思を尊重したいと思うんだ。」
民意に反して「王」になった所で、民を導く事など出来ず。
当然、民に選ばれなかった者に、民を導く事も出来ないのだから。
それが民の意思、民の為になるのなら・・・アーデン自身は、自分が王である必要は無いと思っているし。
王に忠誠を誓う従者達だからこそ「それが民の為になるなら」と、自分と同じ気持ちで受け入れてくれると、当たり前に信じている。
理解してくれる・・・ではなく、共感出来ると。
だってそれが民の為になるのだから。
■□■□■□■□■□■□■□■□
「エイラ様・・・我々は、どうすべきなのでしょうか?」
その日の会合では当然、結論など出ず。次回以降の会合には彼にも声を掛けるように・・・とのアーデンの締めの言葉を以て解散となった。
その会合でのアーデンの一連の発言を思い返し、意見を求める従者に返す言葉も無く、エイラは心の内でひっそりとため息を吐く。
どうすべき・・・など、考えても仕方が無い。
自分達は、王の御心のままに・・・「全ては我らが王の為に」と誓った身。
アーデンが「民の為」と決めたのなら、自分達も「民の為」だと従うしかないのだから。
勿論、エイラや従者達にとって、アーデン以外の王などあり得ない。
ソムヌスの事は同じ「王剣の一族」として信頼しているし、「剣神バハムートの御子」として信仰もしているが・・・ソルハイム王国の王として認められるかと言われれば話は別で。同じソルハイムの思想を持つ、気心の知れた人間だからといって、アーデンの代わりにとは考えられない。
しかし多くの民が「ソムヌスが王だと勘違いした原因」が「ソムヌスが玉座に座っていた」から・・・皆に担がれ「希望の道」を行くソムヌスの姿が、彼らの「希望」と重なった結果にあると聞いていたアーデンは、
「そのような勘違いを、真に受ける必要はありません。
それはまやかし・・・無知故の勝手な幻想です。」
厳しく言い捨てる従者に対し、目を伏せ首を横に振り・・・彼が普段見せる事の無い、緩やかな否定の意を示しこう告げた。
「彼らがそう信じた事は事実だ・・・それは認めてやって欲しい。
それに彼らがソムヌスが王であると勘違いした原因が、
あの子が玉座に座っていた事にあるのなら・・・、」
「一番最初・・・ソルハイムを発つ時。
ソムヌスを玉座に担ぎ上げたのは私だ。
つまり彼らの誤解の発端は、私にあると言う事。
責めるなら、私を責めて貰って構わない。」
王剣の一族の者達は、ソルハイム王国から石で出来た「王の玉座」を持ち出すにあたり、
玉座としての最小限の形と、その他の各パーツに分けた後。
更に軽量化を図る為、建国時より継承されるソルハイムの歴史「石の座面」と。玉座の背面にあしらわれていた石板・・・ソルハイムの繁栄を示す4つの地域の紋章からなる「ソルハイムの紋章」部分を取り外し。
その二つを用意しておいた木製の玉座に取り付け、それを井桁に組んだ担ぎ棒に固定する事で、ソルハイムの歴史と魂を、まだ見ぬ新たな地へ運ぼうと試みた。
結果、その様相は「神を運ぶ輿=神輿」の様な見た目になっていて。
アーデンはソムヌスの前にしゃがみ込むと、泣き出しそうな弟を持ち上げ・・・彼らが担ぐ玉座に座らせた。
つまりアーデンはその事を以て「ソムヌスを神輿に担ぎ上げたのは、他ならぬ自分」なのだから「彼らの誤解の発端は自分にある」と、言いたいのだろう。
それこそ真に受ける必要などない、言葉遊びにも程がある。
でも、それでも事実には違いないのだと・・・そこに在るのは「ソムヌスを神輿に担ぎ上げたのは自分」という事実を背負う潔さ。
ソムヌスを神輿に担ぎ上げたのはアーデンで、今更それを悔いた所で後の祭り。
従者達にとっては「まさか、こんな事になるなんて・・・」と、随分と皮肉な話だった。
PR
