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FF15:レガリア(TYPE-F)で1000年の時を超える話《新約 41》
- 2025/07/21 (Mon) |
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《今回の御品書き (FF15・二次創作モドキです) 》
【『ルシスの禁忌』とは (火山の冬~三種の神器)】
《今回の御品書き (FF15・二次創作モドキです) 》
【『ルシスの禁忌』とは (火山の冬~三種の神器)】
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【『ルシスの禁忌』とは (火山の冬~三種の神器)】
ソルハイムの人々は、ラバティオ火山に近いスカープ地方からウェルエタム地方へと移住していた事で、噴火によって引き起こされた一連の自然災害からは逃れられたけど。
それは「直接的な被害を受けなかった」に過ぎず。
ラバティオ火山の大噴火で噴出した火山ガスによって引き起こされる「火山の冬」の影響は、世界規模の寒冷化現象を引き起こし。
特に寒さ厳しいウェルエタム地方に移住したソルハイムの人々にとって、貴重な日光を妨げるその気候現象は死活問題と言え、
「・・・氷神様が、悲しんでるのかな?」
平均気温から落ち込んだ寒さを、信心深い子供達がそう憂う中。
大人達はもっと現実的な問題として、この寒冷化に対し思慮に思慮を重ねていた。
決して神を責める訳では無い・・・その様な事、言える筈も無いけれど。
現実問題として、この寒さの中では食料となる作物も家畜も満足に育たず。
このままでは民を食わせて行けない、賄いきれない、養えない・・・その先に見えるビジョンは、寒さと飢えによる滅亡という最悪のシナリオ。
全てのソルハイムの民が、心穏やかでありますように。
千年以上も昔「始まりの王」より続く歴代のアーデンが・・・ソルハイムの王として、それだけを願い尽くして来た。
アーデン・・・その呼称と共に継承されるのは、歴代ソルハイム王の意志と願い。
だからアーデンは、決断しなければならなかった。ソルハイムの民が生き延びる為には、どうするべきかと。
どのような困難な道のりでも苦難の堪えぬ日々でも、その先に民が救える希望があるのなら。
自分自身の事なんて・・・全てを捧げる覚悟は、当の昔に出来ていた。
ラバティオ火山の噴火以降、例年より寒くなった・・・と、感じていても。
寒さの原因がラバティオ火山の噴火にあるとは、思っていなかったかもしれない。当時の人達は、火山の噴火のせいで寒くなるなんて思いもしなかっただろうから。
でも寒さのせいで作物も家畜も育たないなら、人間は生きて行けない。突き付けられた現実問題を前にして「原因が何か?」なんて、悠長な事を言ってる暇は無かった。
だって王の役目は、民が心穏やかに暮らせるよう先導する「導き手」である事だから。
誰よりも先んじて進まなければならない・・・道が無くても切り開かなきゃならない、道が複数あるなら選ばなきゃならない。
王とは、絶対に立ち止まってはならないもので。
前に進み続けなければならないものだから。
自身の全てを犠牲にする事になったとしても、そこに後悔なんて無かったんだ。
民が安心して後をついて来れるように・・・それだけが望みだったから。
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元々寒さ厳しい土地であるウェルエタム地方では、この寒冷化に耐えられない。
正確には「何年続くのか?」「これ以上寒くなるのか?」・・・気候現象のメカニズムが分からない当時の人間達にすれば、この寒さが何時まで続くのか分からない状況こそが一番の不安要素で。
加え、既に飢饉の兆しが見えている・・・来年以降の収穫もままならない事が事実として分かっている以上、手をこまねいている訳にはいかない。
王は民の為に前へ進まなければならない、道を選ばなければならない・・・例えそれがどんなに困難な道だとしても、楽な道など一つとして無くても。
だからアーデンは、周囲の反対を承知の上で一人決断した。
「これ以上、民を凍え飢えさせる訳にはいかない。
民の命と生活を守る為、
私は新たな土地を探す旅に出ようと思う」と。
それに対し、その場に呼ばれていた王剣の一族の者達は、初めて王に異を唱えた。
嘗て「王剣の一族」との称号を賜った時から・・・否、それ以前から彼らにとって王は絶対的存在で、アーデンという王が生まれた時から忠臣であった。
だからこそ若い王の無謀過ぎる宣言に、王を想うからこそ苦言を呈した。
「確かにこの地は、
生き易い土地では無かったかもしれません。
それでも先祖代々築き上げて来た国を、
この地を捨てると仰るのですか?」
「ラバティオ火山の噴火以降、
世界がどのような状況かも分からない今。
王自らそのような危険を冒す必要在りますまい。」
「どうあっても新たな地をと望まれるならば、
我らで旅慣れた者達を用意致しましょう。」と。
それでもアーデンの決意は変わらなかった。
確かに新たな土地を探す事だけが目的なら、王という唯一無二の存在であるアーデンよりも、その道に長けた者達に任せた方が良かっただろうけど。
「新たな土地を探す事だけが、旅の目的では無い。
世界がどのような状況か分からないからこそ、
私は世界を見に行きたいんだ。」
「遠い昔に大陸へと渡っていたソルハイムの民達。
もしも彼らが心の灯火を失い、行く道に迷っているのなら。
私は彼らに手を差し伸べ導きたい。
住む地は違えど、同胞なのだから。」
多くのソルハイムの人々は、ラバティオ火山の噴火は神の意に背いた嘗ての同胞達への、炎神イフリートによる制裁だと・・・彼らの自業自得であると考えていた。彼らは炎神の逆鱗に触れたのだと、身の程を弁えなかった彼らに非があるのだと、嘗ての同胞に同情するどころか気に掛ける事も無かった。
でも王は・・・アーデンは違った。
嘗てクレイン地方に渡った同胞らは、時の王の助言を聞き入れず。炎神の神託にしても裏切り同然に付き返した。伝令の者を剣で刺し殺し、その剣を従者に持ち帰らせるという許し難い方法で。
それでも、その様な仕打ちを受けて尚「住む地は違えど、同胞なのだから」と、アーデンは彼らを救いたいと言う。全てのソルハイムの民が、心穏やかでありますように・・・と。
そんな主に対し「この様な状況で・・・」と、思わないでもない。
でも、そんな愚直なまでの献身こそが、彼が王でありアーデンである由縁で。
彼が王でありアーデンである以上、その想いを覆す事は勿論、思い止まらせる事も出来ないだろうと・・・古より仕えて来た一族の者達だからこそ、容易に理解出来てしまった。だから、
「どうしてもと仰るのでしたら、
我らも共にお連れ下さい。
我ら王剣の一族、捧げた剣に誓って王をお守り致します。」
「留守を任せたい・・・と言っても聞かないのだろう?
危険な旅になるかもしれないが、許して欲しい。」
彼らがアーデンを思い止まらせる事は出来ないと結論付けたように、アーデンも彼らを思い止まらせる事は出来ないと結論付けた・・・ずっとずっと共にあったのだから、そんな事はお互い分かり切っていた。
アーデンの旅には王剣の一族の者達が同行する事になったが、国の中枢を担う一族の人間が挙って付いて行ってしまっては、国が立ち行かなくなってしまう。
逆に一部の王剣の一族の者達だけの同行を許しても、後々の不平不満に繋がる恐れがある。
それに生活物資や食料調達の面や、他の領地にも立ち入る可能性を考えれば、王を守る為とは言え大人数になり過ぎるのは得策とは思えない。
という事で、12ある王剣の一族から一人ずつ。それぞれの一族内で話し合い選ばれた計12人が、一族の代表として同行する事になった。
だからこの「12ある王剣の一族から一人ずつ」と取り決めたのは、建国以前からの忠誠に平等に応える為・・・という側面があった事は確かだけれど、それだけでは無く。
12の一族は「剣神の一族」が「神事」を執り司るのと同じように、それぞれが「法」「医療」「農業」・・・といった具合に、専門分野の長を務める役割を担っていたので。12ある王剣の一族から一人ずつ選抜し同行すれば、全ての分野に対応できる・・・という実務的な意味も兼ねていた。
つまり同行者には「一族の代表として、それぞれの専門分野を持って、その任に就く」・・・その役割・責任が負える人物である事が求められ。当然「何よりも王の旅路に耐えうる、肉体と体力を持つ事が第一条件」であった。
なので「一族の家長だから」という理由だけで、旅に耐えられない老齢の者が選ばれる事は無く。寧ろ彼ら自身が「年老いた自分が付いて行っても、足を引っ張るだけだ」と、年若く健康で丈夫な男達から選ぶよう指示した事もあり。
結果、選ばれた面々は「真に王の旅路を守る為なら命も惜しまず、自身が持つ知識・技術の全てでもって王を守り支える」という、強い覚悟と決意を持つ者達が揃う事となった。
この様な経緯を経て、アーデンの旅に同行する任を託されたのが「王剣の一族」の12人で。
その12人に加え、古来より続く「炎神の一族」王の対であり炎神イフリートの対・・・時のアーデンの妹として育てられて来た「氷神の一族」の娘・エイラを加えた計13人が、アーデンの旅に同行する事となった。
勿論、エイラに関して言えば「女性である彼女が過酷な旅に耐えられるか」という心配はあったけれど。古来より「炎神の一族」である王とは対の間柄にある「氷神の一族」の娘を引き離す事は出来ない・・・そもそも誰も「引き離そう」という発想にすらなく「過酷な旅に耐えられるよう、皆で補佐するのが当たり前」と理解していたし。
エイラ自身、対の存在であり兄妹の関係でもあるアーデンと離れ離れになるなんて想像した事も無く。当たり前に「アーデンの旅に付いていく」との覚悟を決めていたので。
無謀とも思えるエイラの同行に関しては、誰からも異論が上がる事は無く、当然の事として受け入れられた。
それ程までに、アーデンとエイラの関係は当人同士だけでなく、ソルハイムの人々にとっても強固な絆で。
その千年以上の歴史を持つ「神の魂で繋がる、兄と妹」という特殊な関係は、決して途切れる事のない・・・変えたくても変える事も出来ない、不変の愛「兄妹の絆」だった。
ソルハイムの民にとっては、王と娘の関係っていうのはそれ位に強固なモノだったんだ。年若い娘を、どんな危険が待ち受けてるかも分からないような旅に、何の疑問も持たず当たり前に引っ張り出す位にね。
でもそれはあくまでも「神の魂で繋がる、兄と妹」だからであって、そこに二人の個人的な恋愛感情なんて考えもしなかった・・・まぁ、正確には「神の魂で繋がる兄妹関係にある二人が、対の相手に対して、人間のような恋愛感情を持つ事などない」って思ってたんだろうけど。
ん、随分と勝手な話だって?
うーん、オレには分からないけど・・・実際のトコ、王と娘にとっても「そう」思える方が良かったのかもしれないよ?
建国時より「炎神の一族」と「氷神の一族」の血が交わる事は禁忌とされたせいで、千年以上続くソルハイム王家の歴史の中、王と娘が結ばれる事は一度として無かった。
でもソルハイム王家は千年以上純血を保っていた・・・それってつまり歴代の王と娘には、それぞれ別の婚姻相手が居たって事だからね。
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旅立ちの日の朝・・・アーデンは想定外の事態に困惑を隠せなかった。このような旅だから多難なモノになる覚悟はしていたけれど、まさか出発前から立ち往生するハメになるとは思わなかった。
国を立つにあたってアーデンは、ソルハイム王国に伝わる「三種の神器」のうち、
代々継承されてきたソルハイム王の証・・・アーデンが身に付けている、職人達が丹精込めて作り上げた細工が美しい「光輝く指輪」と、
対の娘に継承される・・・エイラの胸元で揺れ輝く、高度な技術でもって多角面にカットされた、まさに氷神の娘に相応しい純氷の様な石をあしらった「水晶の首飾り」は、
普段から二人が身に付けている・・・代々の王より彼らに貸し与えられた物なので、そのまま持ち出すつもりでいた。
が・・・最後の一つは「持ち出そう」という発想にすらならなかった。
何故ならそれは、持ち出す様なものでは無い・・・本物の「王の玉座」だったから。
ソルハイムの「王の玉座」は「始まりの王」の時代より、時の職人たちが精巧な細工を彫り込み続けた結果、石製でありながらもこの頃の時代には芸術作品と言える程の美しさと、座面には綿を詰めた革布を張るといった、玉座としての機能性にも配慮した物へと昇華しており。
そのような技術的評価は勿論、ソルハイムの歴史と魂が込められた物として、何時からかソルハイム最初の「三種の神器」と崇められるようになっていた。
ものの・・・石製の「王の玉座」には違いないので。それを「持ち出そう」という発想になった人間の気が知れないし理解も出来ない。
確かに原初「石の座面」から始まった玉座の歴史は、王の力を誇示するよう他の石材と組合せた結果、時代が進む程に大きくなり。
大きくなる一方かと思えば、スカープ地方からウェルエタム地方への移住の際に運びやすさを優先した結果、玉座としての最小限の形と、その他の各パーツに切り崩されもした・・・と言うのが玉座の研究に勤しむ学者たちの見解で。
その様な研究対象になっている事もあって、今も完全再現には至っておらず。所謂本当に「石の玉座」とイメージする程に「石の塊」という訳では無い・・・のだけれど。
それでもやっぱり「石の塊」には違いないのだから。道なき道を行くような旅に持って行こうなど、正気を疑うというモノで。
「やはりソレを持って行くのは、
無茶ではないだろうか?」
国の為、王の為、そして神の為と・・・捧げられる民らの想いは尊く有難いモノだけれど。
王の望みは、全てのソルハイムの民が心穏やかである事なのだから。
それらの為に、わざわざ背負わなくてもよい重荷を背負う必要は無いと思うし。
民らに重荷を背負わせてまで、尽くされたとも守られたいとも思わない・・・身体的な重荷になると分かっているなら尚更。
しかし王剣の一族の長老達が「ここは若いモンに任せて・・・」と、年若く健康で丈夫な男達を寄越した事が仇となったか。若くして一族の代表に選ばれた旅の同行達は、王への忠誠とヤル気に溢れていた・・・正直、当のアーデンが引く程に。
そんな彼らの言い分としては、ソルハイムの象徴である「王の玉座」無くして、ソルハイム王国とは言えない・・・という事らしい。
勿論、アーデンにとっても先祖代々守り継いで来た玉座は、何にも代えがたい大事な物だったので、彼らが言いたい事も分かる気がするが・・・だからと言って、彼らに負担を強いてまで持ち出したいかと言われれば、やはりそうは思えないし。
仮に持ち出すにしても、それは行き先が決まってもいない今では無い様に思う。せめて場所が決まってからで良くないだろうか?そもそも他に土地が見付からなかったり、気候現象が回復し寒冷化が収まれば、この土地に戻って来る可能性だってあるのに。
と・・・アーデンが思い止まらせようと試みても、元来の穏やかで遠回しな説得では「王に遠慮させてしまっている」と届いてしまうらしく、彼らは頑として引かなかった。
何でも「座する王の居ない玉座など、歴代王に申し訳が立たない」とかなんとか・・・どうやら将来、王に仕える王剣の一族の人間として育てられて来た彼らにとって「王の玉座」は、アーデンが想像する以上に思い入れがある物らしい。
だとしたら、彼らが其処まで想うなら。
彼らにすれば「王の玉座」という重荷を背負ってでも王や国への忠義を尽くす方が、それを置き去りにして旅立つよりも、余程「心穏やか」で居られるのだろう。
それなら彼らの好きにさせてやるのが、王としての務めではないかと・・・アーデンは説得する事を諦めた。
アーデンは王なので、仕える側の人間の気持ちは推測する事しか出来なかったのだけれど。
彼らの心の灯火を消す様な事は、したくなかったから。
正直、好き好んで石の玉座を運びたい・・・なんて連中の気持ちには共感出来無いけど。
本人達がやりたいってなら、それを止める権利は無いかなって。
尤も、その結果の良し悪しは別の話。
だって強過ぎる想いのせいで、空回ったり悪い方向に自体が動いたりって事は・・・誰にも予想なんて出来ないんだから。
自分が選んだからには、その道を信じて進み続けるしかないんだよ。最後までね。
【『ルシスの禁忌』とは (火山の冬~三種の神器)】
ソルハイムの人々は、ラバティオ火山に近いスカープ地方からウェルエタム地方へと移住していた事で、噴火によって引き起こされた一連の自然災害からは逃れられたけど。
それは「直接的な被害を受けなかった」に過ぎず。
ラバティオ火山の大噴火で噴出した火山ガスによって引き起こされる「火山の冬」の影響は、世界規模の寒冷化現象を引き起こし。
特に寒さ厳しいウェルエタム地方に移住したソルハイムの人々にとって、貴重な日光を妨げるその気候現象は死活問題と言え、
「・・・氷神様が、悲しんでるのかな?」
平均気温から落ち込んだ寒さを、信心深い子供達がそう憂う中。
大人達はもっと現実的な問題として、この寒冷化に対し思慮に思慮を重ねていた。
決して神を責める訳では無い・・・その様な事、言える筈も無いけれど。
現実問題として、この寒さの中では食料となる作物も家畜も満足に育たず。
このままでは民を食わせて行けない、賄いきれない、養えない・・・その先に見えるビジョンは、寒さと飢えによる滅亡という最悪のシナリオ。
全てのソルハイムの民が、心穏やかでありますように。
千年以上も昔「始まりの王」より続く歴代のアーデンが・・・ソルハイムの王として、それだけを願い尽くして来た。
アーデン・・・その呼称と共に継承されるのは、歴代ソルハイム王の意志と願い。
だからアーデンは、決断しなければならなかった。ソルハイムの民が生き延びる為には、どうするべきかと。
どのような困難な道のりでも苦難の堪えぬ日々でも、その先に民が救える希望があるのなら。
自分自身の事なんて・・・全てを捧げる覚悟は、当の昔に出来ていた。
ラバティオ火山の噴火以降、例年より寒くなった・・・と、感じていても。
寒さの原因がラバティオ火山の噴火にあるとは、思っていなかったかもしれない。当時の人達は、火山の噴火のせいで寒くなるなんて思いもしなかっただろうから。
でも寒さのせいで作物も家畜も育たないなら、人間は生きて行けない。突き付けられた現実問題を前にして「原因が何か?」なんて、悠長な事を言ってる暇は無かった。
だって王の役目は、民が心穏やかに暮らせるよう先導する「導き手」である事だから。
誰よりも先んじて進まなければならない・・・道が無くても切り開かなきゃならない、道が複数あるなら選ばなきゃならない。
王とは、絶対に立ち止まってはならないもので。
前に進み続けなければならないものだから。
自身の全てを犠牲にする事になったとしても、そこに後悔なんて無かったんだ。
民が安心して後をついて来れるように・・・それだけが望みだったから。
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元々寒さ厳しい土地であるウェルエタム地方では、この寒冷化に耐えられない。
正確には「何年続くのか?」「これ以上寒くなるのか?」・・・気候現象のメカニズムが分からない当時の人間達にすれば、この寒さが何時まで続くのか分からない状況こそが一番の不安要素で。
加え、既に飢饉の兆しが見えている・・・来年以降の収穫もままならない事が事実として分かっている以上、手をこまねいている訳にはいかない。
王は民の為に前へ進まなければならない、道を選ばなければならない・・・例えそれがどんなに困難な道だとしても、楽な道など一つとして無くても。
だからアーデンは、周囲の反対を承知の上で一人決断した。
「これ以上、民を凍え飢えさせる訳にはいかない。
民の命と生活を守る為、
私は新たな土地を探す旅に出ようと思う」と。
それに対し、その場に呼ばれていた王剣の一族の者達は、初めて王に異を唱えた。
嘗て「王剣の一族」との称号を賜った時から・・・否、それ以前から彼らにとって王は絶対的存在で、アーデンという王が生まれた時から忠臣であった。
だからこそ若い王の無謀過ぎる宣言に、王を想うからこそ苦言を呈した。
「確かにこの地は、
生き易い土地では無かったかもしれません。
それでも先祖代々築き上げて来た国を、
この地を捨てると仰るのですか?」
「ラバティオ火山の噴火以降、
世界がどのような状況かも分からない今。
王自らそのような危険を冒す必要在りますまい。」
「どうあっても新たな地をと望まれるならば、
我らで旅慣れた者達を用意致しましょう。」と。
それでもアーデンの決意は変わらなかった。
確かに新たな土地を探す事だけが目的なら、王という唯一無二の存在であるアーデンよりも、その道に長けた者達に任せた方が良かっただろうけど。
「新たな土地を探す事だけが、旅の目的では無い。
世界がどのような状況か分からないからこそ、
私は世界を見に行きたいんだ。」
「遠い昔に大陸へと渡っていたソルハイムの民達。
もしも彼らが心の灯火を失い、行く道に迷っているのなら。
私は彼らに手を差し伸べ導きたい。
住む地は違えど、同胞なのだから。」
多くのソルハイムの人々は、ラバティオ火山の噴火は神の意に背いた嘗ての同胞達への、炎神イフリートによる制裁だと・・・彼らの自業自得であると考えていた。彼らは炎神の逆鱗に触れたのだと、身の程を弁えなかった彼らに非があるのだと、嘗ての同胞に同情するどころか気に掛ける事も無かった。
でも王は・・・アーデンは違った。
嘗てクレイン地方に渡った同胞らは、時の王の助言を聞き入れず。炎神の神託にしても裏切り同然に付き返した。伝令の者を剣で刺し殺し、その剣を従者に持ち帰らせるという許し難い方法で。
それでも、その様な仕打ちを受けて尚「住む地は違えど、同胞なのだから」と、アーデンは彼らを救いたいと言う。全てのソルハイムの民が、心穏やかでありますように・・・と。
そんな主に対し「この様な状況で・・・」と、思わないでもない。
でも、そんな愚直なまでの献身こそが、彼が王でありアーデンである由縁で。
彼が王でありアーデンである以上、その想いを覆す事は勿論、思い止まらせる事も出来ないだろうと・・・古より仕えて来た一族の者達だからこそ、容易に理解出来てしまった。だから、
「どうしてもと仰るのでしたら、
我らも共にお連れ下さい。
我ら王剣の一族、捧げた剣に誓って王をお守り致します。」
「留守を任せたい・・・と言っても聞かないのだろう?
危険な旅になるかもしれないが、許して欲しい。」
彼らがアーデンを思い止まらせる事は出来ないと結論付けたように、アーデンも彼らを思い止まらせる事は出来ないと結論付けた・・・ずっとずっと共にあったのだから、そんな事はお互い分かり切っていた。
アーデンの旅には王剣の一族の者達が同行する事になったが、国の中枢を担う一族の人間が挙って付いて行ってしまっては、国が立ち行かなくなってしまう。
逆に一部の王剣の一族の者達だけの同行を許しても、後々の不平不満に繋がる恐れがある。
それに生活物資や食料調達の面や、他の領地にも立ち入る可能性を考えれば、王を守る為とは言え大人数になり過ぎるのは得策とは思えない。
という事で、12ある王剣の一族から一人ずつ。それぞれの一族内で話し合い選ばれた計12人が、一族の代表として同行する事になった。
だからこの「12ある王剣の一族から一人ずつ」と取り決めたのは、建国以前からの忠誠に平等に応える為・・・という側面があった事は確かだけれど、それだけでは無く。
12の一族は「剣神の一族」が「神事」を執り司るのと同じように、それぞれが「法」「医療」「農業」・・・といった具合に、専門分野の長を務める役割を担っていたので。12ある王剣の一族から一人ずつ選抜し同行すれば、全ての分野に対応できる・・・という実務的な意味も兼ねていた。
つまり同行者には「一族の代表として、それぞれの専門分野を持って、その任に就く」・・・その役割・責任が負える人物である事が求められ。当然「何よりも王の旅路に耐えうる、肉体と体力を持つ事が第一条件」であった。
なので「一族の家長だから」という理由だけで、旅に耐えられない老齢の者が選ばれる事は無く。寧ろ彼ら自身が「年老いた自分が付いて行っても、足を引っ張るだけだ」と、年若く健康で丈夫な男達から選ぶよう指示した事もあり。
結果、選ばれた面々は「真に王の旅路を守る為なら命も惜しまず、自身が持つ知識・技術の全てでもって王を守り支える」という、強い覚悟と決意を持つ者達が揃う事となった。
この様な経緯を経て、アーデンの旅に同行する任を託されたのが「王剣の一族」の12人で。
その12人に加え、古来より続く「炎神の一族」王の対であり炎神イフリートの対・・・時のアーデンの妹として育てられて来た「氷神の一族」の娘・エイラを加えた計13人が、アーデンの旅に同行する事となった。
勿論、エイラに関して言えば「女性である彼女が過酷な旅に耐えられるか」という心配はあったけれど。古来より「炎神の一族」である王とは対の間柄にある「氷神の一族」の娘を引き離す事は出来ない・・・そもそも誰も「引き離そう」という発想にすらなく「過酷な旅に耐えられるよう、皆で補佐するのが当たり前」と理解していたし。
エイラ自身、対の存在であり兄妹の関係でもあるアーデンと離れ離れになるなんて想像した事も無く。当たり前に「アーデンの旅に付いていく」との覚悟を決めていたので。
無謀とも思えるエイラの同行に関しては、誰からも異論が上がる事は無く、当然の事として受け入れられた。
それ程までに、アーデンとエイラの関係は当人同士だけでなく、ソルハイムの人々にとっても強固な絆で。
その千年以上の歴史を持つ「神の魂で繋がる、兄と妹」という特殊な関係は、決して途切れる事のない・・・変えたくても変える事も出来ない、不変の愛「兄妹の絆」だった。
ソルハイムの民にとっては、王と娘の関係っていうのはそれ位に強固なモノだったんだ。年若い娘を、どんな危険が待ち受けてるかも分からないような旅に、何の疑問も持たず当たり前に引っ張り出す位にね。
でもそれはあくまでも「神の魂で繋がる、兄と妹」だからであって、そこに二人の個人的な恋愛感情なんて考えもしなかった・・・まぁ、正確には「神の魂で繋がる兄妹関係にある二人が、対の相手に対して、人間のような恋愛感情を持つ事などない」って思ってたんだろうけど。
ん、随分と勝手な話だって?
うーん、オレには分からないけど・・・実際のトコ、王と娘にとっても「そう」思える方が良かったのかもしれないよ?
建国時より「炎神の一族」と「氷神の一族」の血が交わる事は禁忌とされたせいで、千年以上続くソルハイム王家の歴史の中、王と娘が結ばれる事は一度として無かった。
でもソルハイム王家は千年以上純血を保っていた・・・それってつまり歴代の王と娘には、それぞれ別の婚姻相手が居たって事だからね。
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旅立ちの日の朝・・・アーデンは想定外の事態に困惑を隠せなかった。このような旅だから多難なモノになる覚悟はしていたけれど、まさか出発前から立ち往生するハメになるとは思わなかった。
国を立つにあたってアーデンは、ソルハイム王国に伝わる「三種の神器」のうち、
代々継承されてきたソルハイム王の証・・・アーデンが身に付けている、職人達が丹精込めて作り上げた細工が美しい「光輝く指輪」と、
対の娘に継承される・・・エイラの胸元で揺れ輝く、高度な技術でもって多角面にカットされた、まさに氷神の娘に相応しい純氷の様な石をあしらった「水晶の首飾り」は、
普段から二人が身に付けている・・・代々の王より彼らに貸し与えられた物なので、そのまま持ち出すつもりでいた。
が・・・最後の一つは「持ち出そう」という発想にすらならなかった。
何故ならそれは、持ち出す様なものでは無い・・・本物の「王の玉座」だったから。
ソルハイムの「王の玉座」は「始まりの王」の時代より、時の職人たちが精巧な細工を彫り込み続けた結果、石製でありながらもこの頃の時代には芸術作品と言える程の美しさと、座面には綿を詰めた革布を張るといった、玉座としての機能性にも配慮した物へと昇華しており。
そのような技術的評価は勿論、ソルハイムの歴史と魂が込められた物として、何時からかソルハイム最初の「三種の神器」と崇められるようになっていた。
ものの・・・石製の「王の玉座」には違いないので。それを「持ち出そう」という発想になった人間の気が知れないし理解も出来ない。
確かに原初「石の座面」から始まった玉座の歴史は、王の力を誇示するよう他の石材と組合せた結果、時代が進む程に大きくなり。
大きくなる一方かと思えば、スカープ地方からウェルエタム地方への移住の際に運びやすさを優先した結果、玉座としての最小限の形と、その他の各パーツに切り崩されもした・・・と言うのが玉座の研究に勤しむ学者たちの見解で。
その様な研究対象になっている事もあって、今も完全再現には至っておらず。所謂本当に「石の玉座」とイメージする程に「石の塊」という訳では無い・・・のだけれど。
それでもやっぱり「石の塊」には違いないのだから。道なき道を行くような旅に持って行こうなど、正気を疑うというモノで。
「やはりソレを持って行くのは、
無茶ではないだろうか?」
国の為、王の為、そして神の為と・・・捧げられる民らの想いは尊く有難いモノだけれど。
王の望みは、全てのソルハイムの民が心穏やかである事なのだから。
それらの為に、わざわざ背負わなくてもよい重荷を背負う必要は無いと思うし。
民らに重荷を背負わせてまで、尽くされたとも守られたいとも思わない・・・身体的な重荷になると分かっているなら尚更。
しかし王剣の一族の長老達が「ここは若いモンに任せて・・・」と、年若く健康で丈夫な男達を寄越した事が仇となったか。若くして一族の代表に選ばれた旅の同行達は、王への忠誠とヤル気に溢れていた・・・正直、当のアーデンが引く程に。
そんな彼らの言い分としては、ソルハイムの象徴である「王の玉座」無くして、ソルハイム王国とは言えない・・・という事らしい。
勿論、アーデンにとっても先祖代々守り継いで来た玉座は、何にも代えがたい大事な物だったので、彼らが言いたい事も分かる気がするが・・・だからと言って、彼らに負担を強いてまで持ち出したいかと言われれば、やはりそうは思えないし。
仮に持ち出すにしても、それは行き先が決まってもいない今では無い様に思う。せめて場所が決まってからで良くないだろうか?そもそも他に土地が見付からなかったり、気候現象が回復し寒冷化が収まれば、この土地に戻って来る可能性だってあるのに。
と・・・アーデンが思い止まらせようと試みても、元来の穏やかで遠回しな説得では「王に遠慮させてしまっている」と届いてしまうらしく、彼らは頑として引かなかった。
何でも「座する王の居ない玉座など、歴代王に申し訳が立たない」とかなんとか・・・どうやら将来、王に仕える王剣の一族の人間として育てられて来た彼らにとって「王の玉座」は、アーデンが想像する以上に思い入れがある物らしい。
だとしたら、彼らが其処まで想うなら。
彼らにすれば「王の玉座」という重荷を背負ってでも王や国への忠義を尽くす方が、それを置き去りにして旅立つよりも、余程「心穏やか」で居られるのだろう。
それなら彼らの好きにさせてやるのが、王としての務めではないかと・・・アーデンは説得する事を諦めた。
アーデンは王なので、仕える側の人間の気持ちは推測する事しか出来なかったのだけれど。
彼らの心の灯火を消す様な事は、したくなかったから。
正直、好き好んで石の玉座を運びたい・・・なんて連中の気持ちには共感出来無いけど。
本人達がやりたいってなら、それを止める権利は無いかなって。
尤も、その結果の良し悪しは別の話。
だって強過ぎる想いのせいで、空回ったり悪い方向に自体が動いたりって事は・・・誰にも予想なんて出来ないんだから。
自分が選んだからには、その道を信じて進み続けるしかないんだよ。最後までね。
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